あなたと結婚なんてお断りです。

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 今まで言葉にしてこなかった。  傍にいるだけでいいと思っていた。  だけどこんな風に、突然日常が奪われることが、これからもあるかもしれない。  その時にもう、後悔はしたくない。 「私の命を助けてくれてありがとう」  継母に従えば、私は殺されていたはずだった。それを助けてくれて、自らの地位も何もかも捨てて、森で私と過ごしてくれた。 「ずっと、私を守ってくれてありがとう。私、貴方が大切で、大好きよ」 「……ユキ」  城から逃れ、私は姫ではなく、ただの『ユキ』になった。彼がつけてくれたこの名前も、彼に呼ばれるだけで嬉しい。 「ね、貴方は?」  瞬間、真っ赤に染まった顔を見て、ついつい笑ってしまう。彼のこの顔が大好き。  この顔を見れば、答えは聞かなくてもわかっている。だけど、ちゃんと言葉で聞きたいの。 「ね、一言でいい。一度でいいの。ちゃんと聞かせて」  縋るように彼を見上げれば、真っ赤な顔で狼狽えたけど、しばらくして、微かな声が聞こえた。 「…………すき、です」  風に飛ばされて聞き逃してしまいそうなくらい小さな声。鳥が囀ったらかき消されちゃうくらい。  だけど、ようやく聞けた言葉に私は嬉しくて、羽が生えたかのように身体がふわふわする。 「ね、あんなヤツの感触、貴方が消して」  だいたい、私が意識なかった間のことだもん。カウントゼロよ。  突然待ちの体勢に入った私の要求にオロオロしていたけれど、大きく深呼吸をする気配がした。  このあと触れる気配を感じて、世界一幸せな気分を噛みしめながら、その瞬間を愛おしく待った。  これからは毎日キスしましょう。  楽しいときも、喧嘩したときも。  触れるたびにもっと愛おしくなるから。
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