想い

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想い

 グレンと出会ってからのアキラは少しおかしかった。学校ではボーッとしてるし家の仕事の手伝いをしている時も普段ならばあり得ないミスをするし、大好きな登山も山菜採りも何をしても楽しくない。彼と話しているときが一番楽しかった。誰も近寄らない山奥の古びた館の中で、テレビもゲームも何もない環境で、彼とゆっくり時間を過ごすことが何よりの癒しであった。  彼の優しい眼差しが好きだ。名前を呼ばれるのも、壊れ物を扱うかのように触れる手も、愛しいと思う。彼が他の人間の血を飲んでいるのは気に入らない。自分のことだけを欲しがってくれたらそれでいい。なんて醜い独占欲だろう。彼にだって好みはある。こんな子どもの自分よりももっと綺麗な人の方がいいに決まっている。そう、あの日見た女性の遺体のような……。 「アキラ?どうした?」 「え?」 「ボーッとしているぞ」 「あっすみません、ちょっと考え事を……」 「何か悩み事か?良かったら話してみてくれないか」  客間のソファーにグレンと向かい合わせに座ったアキラは「えっと、でも……」と言葉を詰まらせる。 「もちろん無理にとは言わないよ」 「……無理じゃないです、僕……最近可笑しいんです」 「可笑しい?どこが?何も変なところはないように見えるが……」 「見た目じゃなくて心が」 「心」 「はい……グレンさんを見てると胸が苦しいんです、貴方が他の誰かの血を飲んでいるのを勝手に想像して、モヤモヤしてイライラして……っ」  アキラの目から涙が溢れ落ちる。 「自分でもどうしてこんな感情になってしまうのか分からないんです」  グレンは黙って聞いていたが優しく微笑んだ。 「俺もそうだ。君は皆に愛されているから不安になる。心が落ち着かなくなっていてもたってもいられない、君を拘束して自分だけのモノにしたくなるよ……恐ろしいだろう?」  優しい笑みの裏に隠れたグレンの本音が聞けてアキラは恐ろしいとはかけ離れた感情が沸いてくる。 「グレンさん、やっとわかりました。僕は貴方が好きなんだと思う」 「俺も君が好きだ、君を見つめるたび心が苦しくなる、こんな感情は初めてだ」 「……隣へ行ってもいいですか」 「おいで」  グレンがソファーをポンポンと叩くとアキラはその隣へ腰を下ろす。 「一人分あけるのはどうしてなんだ」 「は、恥ずかしいので」 「恥ずかしいのは俺も同じさ、ほら見てくれ、嬉しくて動揺してる」  そう言ってグレンが自分の震えた手を見せると「わっ本当だ」とアキラは笑った。緊張が解れ互いに見つめ合う。二人の視線が自然と唇に落ちていき、どちらからともなくキスをする。 「君は俺の生きる希望だ」 「僕も、貴方がいない人生なんて考えられない」  二人は誰も手の届かない世界にいるようなそんな気がした。
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