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その結果を聞いた途端に先生は、ムンクの叫びみたいに顔を抑えてチンアナゴよろしく体をくねらせた。
いや確かにそう言いたくなる気持ちはわかる、私もこれじゃ何かを言い出せる状態じゃない。
「ちらっと見えたんだけど、渡守さんの点数はどれも平均点より下だったんだよ」
「そんな馬鹿な!だって圭さんと渡守さん、一緒に勉強してて、点数だって何度も平均点超えてたじゃないですか!私も確認してますよ!!」
「うん、そうなんだよね……」
帰ってきた答案用紙を見ても問題に不備があったとか、知らない問題があったとか、先生の趣味が入っていたとか、そういう問題点は何も無い。
でもそれなら、なんで何回も勉強してたところが出来てなかったのかが分からない。
テスト期間中も何度か話しても緊張してた様子とかなかったし、至って普通の感じだったのに。
「ちょっと待ってください、念の為答案用紙と渡守さんのデータの照合を、あれ?」
「どうしたの?」
「いえ、なんと言いますか、不可解と言いましょうか、なんですかこれ?」
「ごめん、それじゃ分からないから具体的に教えて」
「では手短に、テストの結果と以前までの勉強を比較したんですけど、何故かテストの時だけ間違ってるんです」
「え?」
「それも本来できていたところが複数、まるで意図的に間違えたみたいに。そんなことする理由なんて無いはずです」
意図的に間違えた?確かにそんなことをする理由なんてない。
そうしたなら点数の低さも納得できる、だって分かっていてもわざと間違えればいいんだから。
なら、どうしてそんなことを?
だって先生からの心象も悪くなるし、生徒からも言い目では見られない。
そうまで考えて、ある仮説が思い浮かんできた。
「…………先生、渡守さんをどう思う?」
「どうって、そりゃ───」
確かに先生の口からそれは聞こえた、そして私もその考えに自信が持てた。
それにもしそうなら全ての辻褄は合う、なんて馬鹿なことをしたんだと怒りさえ感じる。
そんなことをしなくても良かったのに。
そう思うまま日が暮れて、結局私達が眠るまで渡守さんは帰ってこなかった。
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