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「……どうしたの?そんなに思い詰めた顔をして」
「ハッ、んなふうに見えてんのかよ。とことんおめでたい奴だ、んなことより自分の心配をしたらどうだ?」
精一杯強がって、それでもこの機会をものにしようと震える手をアイツの喉にかける。
「なぁ、首には重要な血管があるって知ってるよな。酸素を脳に送る為に必要なものもここにあるんだ。アンタの生き死には今アタシが握ってるんだぜ」
「知ってるよ、きっと凄く苦しいのかもしれないね」
「あぁ、下手したら一生病院暮らしだ。いや、意識さえももう戻らねぇかもな」
「それは嫌だな、もう渡守さんのことが分からなくなっちゃう」
「……この状況を理解してねぇわけねぇだろ?分かってんのか?アタシがこの手を握ればお前は」
「しないよ、渡守さんは」
心の中を覗かれるように、胸中の葛藤を突き崩すみたいに、アイツの澄んだ目がアタシを見据える。
やめろ、その目でアタシを見るな。
アタシを理解しようとするな。
アタシに暖かいものを与えようとするな。
アタシに、希望を与えようとするな。
「アタシがやれねぇとでも思ってんのか?アタシは」
「───ううん、違うよ。渡守さんは不良じゃないよ」
その一言で、全身から力が抜けてしまう。
それはアタシが、誰かに言って欲しかった言葉だ。
ずっとずっと、そう言って欲しかった言葉だった。
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