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chapter4
いつも右頬に雨が落ちてきて、ああ、ぼくの持っている傘じゃ意味はないな、と思う。傘のさしかたが下手なのか、歩く歩幅が大袈裟なのか。きっとさしかたの方なのだろう。
その時も雨はぼくの右頬の涙袋の少し下に落ちてきた。きみにも確かに落ちてきたのだろう。きみはまだ動かない。
ぼくは、近所のアパートの駐車場に向けて、スピードをつけてバックしている乗用車に気が付いた。もその静謐な緊張感に気が付いたのだろう。ゆっくりとぼくの右手を握った。彼女が動いた、ぼくは安心した。君もさっきよりも落ち着いた目をしていた。
プラスチックの植木鉢の縁に溜まった雨水に、月の光が映り込み、時折風で棚引いて、ぼくらは暫く其れを見ていた。
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