chapter4

1/1

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

chapter4

 いつも右頬に雨が落ちてきて、ああ、ぼくの持っている傘じゃ意味はないな、と思う。傘のさしかたが下手なのか、歩く歩幅が大袈裟なのか。きっとさしかたの方なのだろう。  その時も雨はぼくの右頬の涙袋の少し下に落ちてきた。きみにも確かに落ちてきたのだろう。きみはまだ動かない。  ぼくは、近所のアパートの駐車場に向けて、スピードをつけてバックしている乗用車に気が付いた。もその静謐な緊張感に気が付いたのだろう。ゆっくりとぼくの右手を握った。彼女が動いた、ぼくは安心した。君もさっきよりも落ち着いた目をしていた。  プラスチックの植木鉢の縁に溜まった雨水に、月の光が映り込み、時折風で棚引いて、ぼくらは暫く其れを見ていた。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加