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chapter5
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。
きみはしっかりとした声で長明の文を暗唱した。
「戻ってこれたみたい」
「どこから?」
「淀みの中から。あなたの声が聞けてうれしい」
「ぼくもだ」
きみはそれ以上、何も言わなかった。
東京の方では雷が鳴っている。こちらでは雨は止んで、湿った風が吹いていた。
ぼくらは抱きしめあった。でも、キスはしなかった。ぼくはを駅まで送った。暫くは会えなくなる。それがぼくらの裡で必然と了解されていた。
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