chapter5

1/1
前へ
/7ページ
次へ

chapter5

 ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。  きみはしっかりとした声で長明の文を暗唱した。 「戻ってこれたみたい」 「どこから?」 「淀みの中から。あなたの声が聞けてうれしい」 「ぼくもだ」  きみはそれ以上、何も言わなかった。  東京の方では雷が鳴っている。こちらでは雨は止んで、湿った風が吹いていた。  ぼくらは抱きしめあった。でも、キスはしなかった。ぼくはを駅まで送った。暫くは会えなくなる。それがぼくらの裡で必然と了解されていた。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加