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「天海…お前さ、もう少し自分の事大切にしないと、夏泣くぞ?」
夏…柊崎君の事?
「うん。だから、よく泣いてる。俺、人の気持ちに寄り添えないから」
人の気持ちに…
寄り添えないのは…
「~~っ…ごめんね」
俺のせい
「え?白峰さんは関係ないです」
関係…大ありなんだよ
「っ多分…関係…あると思う」
「え?いえ…全然関係ないです」
全然…
「~~っそうだよね…ごめん」
この子にとって
父親なんて
生まれた時から居なかった訳で
お金に困ってたり
母親が死んでも
連絡すら寄越さない
そんなの期待すらしない存在な訳で
3人でタクシーに乗ると、美月君が
「天海って…白峰さんとよく似てるね?」
と、言ってきた
「えっ?!」
似てる?!
似てるって見える?!
「え?そう?」
雪君は、そう思わないんだ
まあ…俺も真優に似てるとは思ったけど
自分に似てるとは、あまり思わない
けど…
「絶対親戚だと思った」
美月君が、心臓飛び出る様な事言って
でも、凄く嬉しくて
「夏も、兄ちゃんかと思ったって言ってた」
そうだったの?!
じゃあ…
皆には、似てるって見えてるんだ
「だろ?親戚辿ってけば、どっかで繋がってるかもな?」
「かもな」
どっかって…
俺…父親なんだ
って言いたい
「両親なら、どっちに似てるんだ?」
「…父さんらしいよ…会った事ないけど」
ビクッ
真優が…教えたの?
雪君は知らない風だ
写真とか…
見てたら、さすがに気付くだろうし
「…どうして……どうして…父親似だって分かったの?」
「母さんが…よく、俺に似て可愛いんだって言ってました」
やっぱり…
真優…俺の事…
そんな風に言ってくれてたの?
ボロクソに言ってて当然なのにっ…
だからって
俺の罪が消える訳じゃないし
雪君が、どう思ってるかなんて分からない
けど…
嬉しい
嬉しいよ…
真優…
俺のせいで、可哀想な子認定された雪君に
物凄く同情したタクシー運転手さんに、美月君を任せて、雪君とマンションへと入る
「…雪君、大丈夫?知らない男に触られるなんて、気持ち悪かったでしょ?」
と聞くと
「ああ…たまにあるんで。服の中にまで入れられたのは、初めてでしたけど」
と返ってきた
「えっ?!たまにあるの?!」
女の子だって、そんなにないよ?!
男の子なのになんで?!
「白峰さん…声…」
「あっ…ごめん…なんで?!って…雪君に聞いても分かんないよね……」
そんなにないはずなのに
男なのに
俺も経験ありって事は…
「そうですね?あ、エレベーター来ました」
え…
何?
顔?
この顔が痴漢されやすいとかあるの?!
だとしたら、完璧に俺のせいだよ!
「…どうしよう…」
どうしようって言ったって
今更、顔変えてあげる事出来ないし
ずっと傍で守ってあげる訳にもいかないし
チン
こんなの親でもない奴が、ウザイかもしんないけど
「雪君…こんな時間までのバイト、よくあるの?」
「その日のバイトによりますけど…結構遅い事はあります」
そうなの?!
もっと早い時間に帰らないと危ないだろ?!
って、言いたい
「…そう……その…遅い時間だと…酔っ払ってる人とか…結構居るから……心配だな…」
ただの近所のおじさんが…
ウザイよね
しかも…俺のせいで頑張ってバイトしてるんだろうし…
「大丈夫です。今日も白峰さんが声掛けてくれなかったら、大声で叫んでやろうと思ってたとこだったんで」
そうだったんだ
俺より
ずっと強くて、しっかりしてる
「……そっか。でも…叫べなかったら、知らない人でも、その辺の人に助け求めるんだよ?」
あ…自分の子供に言う様に言っちゃった
子供居た事ないけど
「うん…あ、はい」
今…
うんって言った!
可愛い!可愛い!可愛い!
「……それじゃ、ゆっくり休んでね。おやすみなさい」
「ありがとうございました。おやすみなさい」
俺…
冷静に挨拶出来てたよね?
変じゃなかったよね?
家に入りソファーに座る
「~~~っなんか…親子っぽくなかった?」
父親が、子供に言い聞かせて
子供が返事する、みたいな
「~~~っ!嬉しい~っ!」
不思議だ
自分の子供だって知ったの
つい最近で
それまで全然知らない子なのに
自分の子だって思うと
他の子達とは全然違う感情が湧いてくる
ちょっとした言葉や、仕草や、表情が
全部愛おしく見えてくる
「はぁ~っ…ちっちゃい頃も…絶対可愛かった」
見たかったな
真優と一緒に…
苦労してでも一緒に育てたかったな
でもこれは、ない物ねだりだ
自分は全然苦労しないで
今更言う事じゃない
父親の事
真優が、いくらどう言おうと
良く思ってる訳ない
「……名乗り出たら…迷惑…かな…」
文句言うでも
愚痴言うでも
殴るでも
何でもいい
今からだけでも
俺に出来る事させて貰えるなら嬉しいけど
そういうのも…
迷惑なのかな
ほっといて欲しいって
思うかな
俺に似たせいで痴漢に合ってるんだとしたら
俺は、悪影響しか与えてない
そのせいで、あんな怪我までさせたのかもしれない
死んでると思った状態って何?
怪我って、顔だけじゃなかったの?
それに…
その時の奴が痴漢してくるって
その時は…
何された?
「はぁ…」
考えたって、どうしようもないんだ
もう、終わった事だし
俺が何か出来る立場じゃないし
けど
何も思わずにはいられない
「くそっ!」
あいつ…捕まえてやりたかった
雪君…完全に触られてた
わざわざ自分から声掛けてくるなんて
ふざけてる!
なのに…
俺も美月君も怒ってるのに
雪君全然…
どうでもいいみたいな…
「うん。だから、よく泣いてる。俺、人の気持ちに寄り添えないから」
あの真優の傍に居て
そんな風に思う子に育つ訳ない
俺が
そうさせた
どんな父親でも
居ても
居なくても
もう
どうでもいいのかもしれない
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