夏希side

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「夏、そろそろお風呂入るよ」 「だから、これなら自分で入れるって」 「恥ずかしがると、もっと恥ずかしくなるんだぞ?」 「そう思うなら、許可しろ!」 「はぁ…分かったよ。でも、椅子座るとこまでは手伝う。あと、上がる時は、立ち上がる前に叫んで」 「それじゃ、1人で入る意味がねぇよ!」 しかも、その感じ 雪は服着てるって事だろ? 風呂入らないのに脱がれても困るけど 「ワガママ夏」 「何とでも言え」 「勝手にすれば?更に怪我しても知らない」 「大丈夫だって」 ……ったく、傍には居てくれないくせに、お節介は凄いんだから ……まあ…分かんないから、一生懸命やってくれてんだろうけど 少し腫れ引けた? 手の方はそうでもないからな これなら、あさって辺りから学校は行けるんじゃね? ちょっと痛いけど、色んなとこに掴まりながら、ゆっくりだと全然大丈夫だ 雪が、頑張って買って来てくれた椅子のお陰もあるけど 手伝った奴の事は……あまり考えないでおこう リビングへの戸を開けて、雪に椅子を持って来てもらおうと思ったら 「大丈夫だった?」 戸の前に、椅子に座った雪が居た 「え?ずっとここに居たの?」 「離れてたら、呼ばれても分かんないじゃん」 「……ありがと」 そう言って雪が座ってた椅子に座ると 「あっち行って湿布貼るよ?足上げてて」 「うん…」 湿布を貼ってくれると 「夏、髪乾かしてない!」 「あ…うん。まあ…いいかなと思って」 「いつも俺には乾かせって言うくせに……俺、乾かしてもいい?」 「…えっ?いいけど雪…自分のもまともに乾かせないじゃん?」 「乾かすのが面倒なだけだ!乾かせない訳じゃない!」 そう言ってドライヤーを持って来る 「俺の髪は、雪と違って、触っても気持ち良くないぞ?」 「気持ちいいとか言うな!エロ夏!」 髪を触って気持ちいいが、エロいと感じるお前はどうなんだ? ブォ~ ドライヤー… いっつもこうやってかけてんの?! カチッ 「こんなもんかな?」 は?! 「いや...んな訳ねぇだろ」 「もうちょっとか」 雑にも程があるだろ 「雪」 「何?もうちょっとかければいいんだろ?」 「あのさ、もう少し丁寧にかけてくんない?」 「は?お前は女子か!」 「女子じゃなくたって、皆もっと丁寧にかけてるわ!」 「そうなの?丁寧って?」 そんなんで、よくその髪キープしてきたな 全国の女子達が、泣いて羨ましがるぞ 「だからさ、ずっと全体行ったり来たりしてないで、ある程度同じ場所を、ドライヤー振りながら、少しずつ乾かしてくんだよ」 「同じ場所当ててたら熱いだろが」 「だからドライヤー振るんだよ。俺も美容師さんも、そうやって乾かしてるだろが」 「そうだった?」 そう言ってドライヤーをかけ始める 振り幅が大きい! でも、もういいや 自分が興味ない事は、ほんとどうでもいいんだな 服も、そろそろ部屋着にすれば?とか言わないとヨレヨレでも気にしない そして、俺が何を着ても一切感想なし カチッ 「こんなもん?」 「ん、こんなもん。ありがと」 ドライヤーを置きに行くと、帰りに冷蔵庫からイチゴを持って来てくれた 「俺、お風呂入ってくるから」 「うん」 明日から雪はまた沈む様になるだろうか? 俺の怪我が治るまでは大丈夫? いっそ、俺が心配な感じにしといた方がいいんだろうか? 「んまっ!」 毎日食べて味は知ってる けど、毎日1口目はやっぱり感動する 分かってたって感動するんだ 雪も分かってる 自分がどう思ったって、何したって、もうどうしようもない事 雪が死んだからって誰も喜ばない事 分かってたってどうしようもないんだ 怒りとか 憎しみとか 悲しみや後悔が消えない限り 勝手にそう思ってしまうんだ 「旨っ」 おばさんきっと、心配で心配で その辺に居るんじゃないかな 雪が自分のとこ来ようとしてるの 泣きそうになりながら見てんじゃないかな それが1番の親不孝なのに そう考えられる気持ちに… まだなれないんだ 短いドライヤーの音がして、雪が出て来た 「だから、早過ぎるって。絶対乾いてないだろ」 「いいの。風邪引かなきゃいいんだよ」 「あのなぁ、自分に優しくしないと、他の人にも優しく出来ないんだぞ?」 そう言うと、 「………分かってる。多分俺は、皆と感覚が違う。普通の人が思う様な事思わなかったり、普通の人は思わない様な事思ったり…だから夏は、もっと文句言って、怒ってもいい…」 なんちゅう顔してんだよ 誰も怒ってるなんて言ってないだろが 「雪…ちょっとこっち来て」 「何?」 目の前まで来た雪に掴まる 「え?立ち上がるの?」 「うん…っと…」 雪に掴まって立ち上がると、雪が支えてくれた その雪を抱き締める 「?…夏?」 「一緒にしようとして、ごめん」 「……え?」 「俺とも皆とも一緒じゃなくていいんだ。雪は、雪なりに考えて、優しくしてくれてるのに、優しくないみたいに言ってごめん」 「みたいにじゃなくて、優しくないの」 「優しいよ。雪は優しい。ありがとう」 「ありがとうって…何もしてないし」 「一緒じゃないのに…分かんないのに…一生懸命考えて、思ってくれるのが…嬉しいんだ」 だって 不安も怖さも痛みも共感できないのに ウザイな、面倒だなってしか思わないかもしれないのに 更にウザイ事まで言ってイラつかせたのに もっと文句言って怒っていいだなんて 「夏…今日も一緒に寝る?」 そりゃ寝たいけど 「…寝ない。雪、明日からまた忙しいから、ちゃんと寝なきゃ」 どうせ1日疲れ果てるまで頑張るんだろ? 「俺、何処で誰と寝ても熟睡だよ?」 「誰と寝るんだよ?俺以外の奴と寝るなよ」 「例えばだろ」 「例えばの世界でも…俺以外の奴と寝るな」 「束縛系彼氏はモテないらしいぞ?」 「雪にだけモテればいい。雪にもモテない?」 「俺は男だ。嫌なら文句言って戦ってやる」 「嫌われたくないから…文句言っていいから…傍に居て」 「なんだよ…それ…」
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