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「夏、ほんとに痛いとこない?足とか、手とか…また痛くしたり…他のとこぶつけたり…」
「頭だけ、机の足にぶつけたけど…あとは大丈夫だ」
「頭傷つかなかったかな?どの辺?」
「この辺」
痛い場所を触ると
どれどれ?とそこを見る
「傷はついてない…けど、たんこぶできてる」
「うん。大丈夫」
元の位置に戻ると
抱き締めて、頭の痛い部分を避けて撫でてくる
「夏…」
「…俺、雪が声掛けても、アホ面して寝てたの?」
「…なんの反応もない夏…怖かった…」
「うん…ごめん」
「また…1回も目覚めないで…話も出来ないで……~っ置いてかれるって…」
「うん…ごめんな」
「もうやだからっ……夏の事っ…嫌いになりたいっ…」
「いいよ。雪が苦しいなら、嫌いになってもいいよ。俺は雪の事好きだから、また戻って来たい時、いつでも待ってるから」
俺でも…俺じゃなくても
これから先もずっと大切な人が居る間
雪は、この気持ちと戦ってかなきゃならない
「…っ嫌いになれるもんなら……とっくになってる!無理言うな!!」
「ふっ…なんだ…雪ベタ惚れじゃん」
「悪いか!」
「悪くない。嬉しいから、怒んないでよ。頭の上で大きな声出したら、頭に響く」
「あっ…ごめん」
そう言って雪が離れる
怒んなって言っただけで、離れろとは言ってないのに
「死にたいのに、頑張って生きてる雪を置いて…俺が先に死ぬ訳ないじゃん」
雪を抱き寄せる
「そんなの…誰にも分からない…母さんだって、死にたくなかった」
「うん…でも俺、その時の事ちゃんと考えてるからさ」
「その時の事って?」
俺の胸の中で雪が見上げる
「死んで、えん魔様なのか、なんて人か分かんないけど…その人のとこ行ったらさ、雪の残りの寿命使って…俺生き返らせて下さいって頼む。沢山じゃなくていいから、一瞬でいいから、ちゃんと雪の事、看取るまででいいから。それだけ出来たら、戻していいからって頼む。だから、雪の事1人遺してなんか逝かないよ」
「それじゃ…夏が辛いだけじゃん」
「俺は、初めてだからいいの。雪は…2回目だろ?2回も辛い思いする事ない」
それも...
たった1人の親なのに…
「……夏」
「何?」
「俺…変だよね?」
「…まあ、そうだな。異常なくすぐったがりだし、あんなに美味しい甘い物好きじゃないし…」
「違う!そういうのじゃなくて!死にたいって思ってるのも、父さんに会ってみたいのに殺したいって思うのも...あの……どうしようもない…どうにも出来ない何かが来て…夏の事傷つけるのも……変だよね?……病院…行った方が…いいんだよね?」
雪…
病院なんて大嫌いなのに
ちゃんと考えてたんだ
「…変じゃない。たった1人の親が死んだんだ。しかも、若くて優しくて美人の母さん。おかしくなるのが普通だ。変じゃない」
「母さんの事、あんまり若いとか美人とか言うな。変態」
「はいはい。アレは…ほんとは、ちゃんと病院で診てもらった方がいいんじゃないかって…俺も思うけど…雪が行く気にならなきゃ、続けられなきゃ意味ないし……それが更にストレスになるなら、行かなくてもいいと思う」
「病院……嫌いだけど…病院行って、夏の事傷つけなくなるなら…行…行って……みようかな…とか…思ったりも…したり…」
「ぶっ!全然行く気ないじゃん!」
よしよしと雪の頭を撫でる
「俺は大丈夫。ほんとに、雪の為に少しは役に立ててる勲章みたいなものだから。けど、俺以外の人と居る時、アレが起きる様なら…ちょっと妬けるから、病院連れてこうかな?」
「多分…起きないと思う」
「そうなの?分かるの?」
「なんとなくだけど……多分…っ…」
「ごめん。考えなくていいや。考えなくていい。たった1つでも…辛い事考えないで」
雪の額にキスをする
ちゅっ
「楽しい事考えて」
ちゅっ
「嬉しい事考えて」
ちゅっ
「たまには俺の事考えて」
「毎日考えてる」
「毎日じゃ足りない」
「は?!」
雪の髪の中に顔を埋める
「辛い事…苦しい事…死ぬ事…考える隙間ない位…俺の事で埋めつくせればいいのに…俺なんて…雪の頭の中の…1割にも満たない…」
「そっ…そんな事ないよ…夏の事…けっこう考えてるよ?」
「うん…でも…死にたいとか思ってる時は…1割ですらっ…なくなるでしょ?」
「……そう…かも…」
「せめてっ…1割位っ…残しといてよっ…」
「……ごめん」
なんのごめんだよ
1割以下に対するごめん?
それとも…
今後もそれは無理ってごめん?
「あっ!ちょっと…携帯取って来る」
「うん…」
そうして、携帯片手に戻って来ると
「夏の声…録音していい?」
「は?」
「夏の匂いの物でもいいけど、匂いなんてすぐ消えちゃうだろ?」
ああ…
俺の声とか匂いとか落ち着くってやつか
「そんな特別でも、いい声でもないのに…何話せばいいんだよ?」
「なんでも?内容はどうでもいい」
「おい!話す俺に対して失礼だな」
「ずっと俺の名前呼んでてもいいし、今日の反省でもいいよ」
「今日の反省…は…あるけど、そんなの録音されたくないんですけど」
「じゃ、夏のバイトの話。どんな仕事内容か教えて?」
まさか…こいつ
「雪…ほんとにこれ以上は無理だからな?雪が見かけによらず体力あるとしても、これ以上増やしたら、ほんと倒れるからな?」
「違うよ。ただ単純に聞きたいだけ。結婚式なんて見た事ないし、どういう仕事するのかなって」
「ほんとに?」
「しつこい男は嫌われるよ?」
「うっ…分かった」
「んじゃ撮ろうっと。顔はやめた方がいい?」
「当たり前だ!声だって恥ずいわ!」
「んじゃ、この辺に伏せとくか。はい、どうぞ」
どうぞじゃねぇよ
緊張すんだろうが
噛んだらどうしてくれんだよ
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