雪side

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「お風呂、今のうちに入っちゃえばいいのに」 「大丈夫。もう、ほぼ普通に動ける」 「絶対お風呂掃除とかしないでよ?」 「分かってる。帰り遅いの?」 「遅いって言ってたから、待たないで寝ててね」 「言ってた?今日はなんか、変わったバイトなの?」 「うん。イベント会社に親戚が居る友達の紹介のバイト」 「ふ~ん…」 なんか、大人しくなったな また、眠くなってきたか? 「その友達も一緒なの?」 「そうだよ?慣れてるから、色々教えてもらえる」 「……そう。制服は?」 「特にないらしいよ。腕章を付けるとか言ってたな」 「……そう…じゃあ…」 「ん?…なっ?!…ちょっと…」 後ろから、左の首の付け根にキスし始めた ちゅっ  「どっちに居るか分かんないから、こっちも」 「えっ?…なっ…夏!…何?!」 今度は右? キスされるのもだけど 夏の髪が、首に当たるんだよ! ちゅっ 「ギリギリ見えないかも…この辺にも…」 「ちょっ…とっ!」 俺の肩を乗り越えて、Tシャツの襟の辺りにキスをする 「んっ!…もっ…付いたっ…夏っ…」 体力!体力なくなる! 俺これからバイト! ちゅっ 「ん…ここなら、自分でも見えるよね?」 そう言って、今付けた場所に、すっと指を沿わせる 「~~っ!」 なんで、こいつは、触り方がイチイチやらしいんだ! 「雪…ありがと」 散々やって、元の定位置に収まった この頭の上の奴は、頭がおかしい すっかりイカれたんだ なのに… 気持ち悪いとか思わないで… なんなら…嬉しいとか思ってる俺も すっかりイカれてる 「じゃ、行って来る。なるべく動くなよ?」 「雪は、久しぶりのバイトなんだから、無理するなよ?」 「うん」 「行ってらっしゃい」 なんだったんだ? どっちに居るか分かんないからって事は 美月にヤキモチか? 自分は空閑(くが)と色々やってるくせに 勝手な奴 「おお、天海、こっちこっち」 「美月。よろしくお願いします」 「おお、そんな難しい仕事じゃないから、大丈夫だ。同居人大丈夫だったか?」 「全然大丈夫だった。ご飯は作って来たけど…普通に夜寝てたのに、熟睡してた」 「どっか調子悪いと疲れるから、眠いんだろ。ご飯作って来たのか。偉いな」 「だって夏、食いしん坊だから」 お昼…パンあるからと思ったけど 足りるかな? 何個も食べたら大丈夫か 「夏っていうのか?同居人」 「え?ああ…うん」 名前出してたか… まあ、いいか 「夏も、普段はご飯作ってくれんのか?」 「夏もって言うか…普段は俺の方が忙しいから、ほぼ夏が作ってくれてる」 「へぇ~。文句言われないの?たまには作ってとか」 「……言われない」 文句なんて、山の様にある ご飯作るなんてものより もっともっと… けど…言われない 「……恋人?」 「……えっ?!…えっ!…なっ?!」 「ああ…分かった。突然聞いて悪い。そっか。他人同士なのに、随分上手く暮らせてるなぁと思ってさ」 「…~~っ」 恥ずかしい!! けど、違うっても言えないし… 「こんなの、付き合い浅い俺の偏見かもしんないけど、なんとなく天海、あまり人と深く付き合おうとしてないのかな?って思ってたから、そういう人が居るって聞いて、なんか嬉しい」 美月… そう思ってたんだ たしかに、俺、極端に付き合い悪いよな 「……高校の…時の同級生なんだけど…俺の母さん…亡くなったりして…」 「……え?」 「それで…夏の家にお世話になったり……色々…俺の事考えて…皆で一緒に暮らせる様に…してくれて…」 「……そっか。家族公認か…でも、高校卒業したばかりで、よく同棲なんて許したな?理解あるわ~」 いや…夏と付き合ってるのなんて 誰も知らないけど ってか、恋人になったの、数日前だし まだ信じられないし ってか、そもそも夏、男だしね? 「お疲れ様でした!」 「お疲れ様~」 「お疲れ~」 「天海、同じ方向だったんだな?」 「うん」 携帯を見ると 『晩ごはん、ご馳走さま』 『美味しかった』 『風呂、無事入れた』 『掃除はしてないぞ』 『雪のベッドで寝る』 『雪帰って来たら分かるから』 「ふっ…」 だから、お前そんなキャラだったか? どんだけだよ 「幸せそうな顔してんなぁ…」 「え?」 美月が、ニヤニヤして見ている 「べっ…別に?」 「隠さなくてもいいのに。もっと幸せ自慢しろよ。昼に帰った少しの間に、付けられたんだろ?」 「え?」 美月が、俺の襟元を指差す なんだか忘れて、襟を捲って思い出す !! 「えっ?何?忘れてたの?」 忘れてたよ、完全に! 美月に見られたじゃん! 「そんなとこに付けてんのに忘れられたら、夏、可哀想じゃん」 「……そっか。普通…忘れないよね?」 「?…まあ…俺なら忘れないかな?」 「俺…おかしいからさ。多分そういうの、いっぱい思わせてる」 あんなに嬉しかったのに すっかり忘れてる 夏の気持ちごと… 「そもそもが、冷たい人間なんだよね。人の気持ちに寄り添えないって言うか…」 「……冷たい人間は、自分の事そんな風に言わないよ」 「…美月はまだ、気付いてないだけ」 「冷たい人間が、わざわざ家帰って、晩ごはん作って、自分は忘れる位興味のない、そんなん付けさせて、バイト戻って来るかよ」 「美月は…優しいから、そんな風に考えられるんだ」 夏の為じゃない 自分の為 夏が寂しがってくれるのが 俺を待ってくれてるのが嬉しいんだ そのうち夏を置いてこうとしてるくせに
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