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彩雪side
会社のパソコンが、一斉に落ちた
どうやら定期的なメンテナンスを、ケチって先送りにしてたらしい
なんとか3時間で復旧させてくれたものの
その代償は大きかった
「疲れた…」
絶対家帰ったら日付変わってると思ったが、絶対に終電逃したくない!
という、皆の団結力と、やる気で
終電には余裕で間に合った
「……え?」
何でこんなに混んでるの?
平日なのに
なんでもいいや
手は吊り革と、バックを前に握りしめよう
こんな疲れてんのに
痴漢になんて間違われたら厄介だ
スーツを着る様になるまでは
どういう訳だか
女装してる訳でもない
どっからどう見ても男の俺に
そういう事してくる人が居た
だから…
される側の気持ち少しは分かる
こんな大勢の中で声を上げるの…凄い勇気だ
否定されるかもしれないし…
とか考えたら…
どこかが、何度か当たっただけでも
もしかしたら不安がらせちゃうかもしれない
せめて、そんな誤解を与えない様に
ん?
あれ?
あの頭、雪君じゃない?
こんな時間に出歩いてるの?!
まあ…大学生だし出歩くか
心配だなぁ
潰されそう…
ハラハラしながら見ていると
駅で、降りる人と乗り込む人の流れに押され
少し雪君の傍に近づけた
う~…
もう少し近づけたら
傍で支えてあげられるのに
雪君の後ろには、少し大きめの男の人
潰されないでよ
いっそ、寄っ掛かっちゃえ
そう思って見てると
なんか…
あの人だけ皆と動きが違う
……何?
嫌な不安が…
いつかの記憶が頭をよぎる
電車の揺れに合わせて動く乗客の隙間から
横から…
上から…
何とか見えないか……
「……え」
一瞬空いた隙間から
不自然に雪君の後ろに合わさってる後ろの奴の体と
そいつの腕の先が捲られた雪君の服の中に入ってて…
一瞬…だったけど
見間違いじゃない
雪君…
声出せないんだ
怖いんだ
俺の大切な…
「おい!その子から、手を離せ!」
周りの人がギョッとしてこっちを見る
少し開いた隙間から、雪君の方を指差すと
一斉に皆がそっちを向き
そいつも雪君から離れた
友達らしい子や、周りの人達も一緒になって、そいつを非難するが
悪びれた様子もなく、聞こえないフリをしている
今すぐ抱き締めてあげたい
混んでるせいで、離れたけど、そいつはずっと雪君の傍に居て…
早く…
早く電車止まれ!
電車が止まり、雪君の元へ行こうとした途端
そいつが、雪君の友達を突き飛ばした
皆、驚いて
そいつは、さっさと逃げてく
逃がすか!
急いで電車を降りて、そいつの後を追う
こんな走るの何年ぶり?
苦しい…
けど
頑張れ俺!
くっそ~!
スーツと、カバンが邪魔して…
思う様に動けない
いや…単純に体が鈍ったのか
人混みを抜けて、小路に入って
動きが…速い!
逃げる事に慣れてる?
だったら捕まえなきゃ
なのに…
頑張れ…
頑張れ俺…
「っはあっ…はぁっ…」
限界
汗だく
息が…苦しい
ヒューヒュー言ってる
くそっ!
せっかくここまで来たのに
雪君…あのまま友達と帰ったかな
あいつ、捕まえようとして降りた?
「はぁっ…はぁっ…」
戻ってみよう
駅まで戻ってみると…
居た!
「雪君!」
「白峰さん!」
やっぱり探してたんだ
追いかけたのに、捕まえられなくてごめんと謝ると
「いいえ…すいません!そこまでしてもらって…白峰さんのお陰で、あいつ社会的制裁受けただろうし、充分です。ありがとうございました」
「天海…親戚の叔父さん?」
え…
親戚に…見える?
「違うよ。同じマンションの同じ階の、ご近所さんで、白峰さん」
「…ご近所さん?」
「どうも、初めまして。白峰です」
あ…俺がおじさんって言ったからか
警察に行こうと言うと
「そこまでしなくて大丈夫です」
「え?」
「少し触られただけなので…」
強がりとかじゃなくて
ほんとに何でもないみたいに…
「俺も、警察行くべきだと思うけど…行ったら…天海がされた事、話さなきゃなんないだろうし…天海が嫌なら…仕方ないかな」
「うん。ありがと」
あ…
そうだった
警察行ったら…
男の子なのに…痴漢されたって言わなきゃならない
やめさせる為とは言え…
電車で皆にバレたのも嫌だったかもしれない
俺が謝ると
「いえ…あいつには、借りもあるんで、助かりました」
「借り?」
「天海、知り合いだったのか?」
「知り合いってか、これの原因?」
そう言って左頬を指差す
「は?!」
「え?!」
俺も美月君も、びっくりして
悔しがってるのに
「え?いや…もう会う事すら無理だと思ってたんで、あんな仕返し出来て満足です」
反応が…
なんで、そんな平気そうなんだろ
俺…痴漢されただけで、けっこうショックだったよ?
そんな酷い怪我させた奴なのに…
「だって、俺酔っ払ってたし、顔よく覚えてないし…あいつが、怪我良くなったんだ…って話し掛けてこなきゃ、さっきだって分かんなかった」
完全に雪君の事覚えてて、痴漢したんだ
許せない
ってか、雪君…
酔っぱらう程お酒飲んだの?
「雪君、お酒は…20歳になってから…って、その人の事何か知らないの?」
「まあ、騙されて飲んだんですけど、ほんとに…酔っ払ってる時、連れてかれたんで…記憶が曖昧で…なんなら、さっき顔見ても分かんなかった位です」
「連れてかれたってお前…それで…夏が見付けた時、死んでると思った状態にされたのか?」
「えっ?!」
騙されて
記憶曖昧になるだけお酒飲まされて
連れてかれて
酷い怪我だとは思ってたけど
死んでると思う状態にされたって…
ってか…見付けて痴漢行為って…
その時も、そういう事されたの?
どうしよう…
この子
どうやって生きてきたの?
なんでそれで
平気そうにしてるの?
なんでって…
きっと…
きっとその原因の大部分は
俺だ
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