1

24/24

14人が本棚に入れています
本棚に追加
/74ページ
想像よりもあっさりと身を引いた彼は先程までの甘やかなデレデレとしきっていた雰囲気をしまい込み、元の澄ました彼に戻ったようだ。 「あー、これに着替えたら良いんだったか?」 そうだった。着替えの話をしていたはずが随分と逸れてとんでもない展開になってしまった。 「っあ、そうです。それしか無くてほんと間に合わせですけど…」 忘れ去られていた着替えを手に取るとそそくさと着替え始めた。 次々と服を脱いで行く彼の切り替えの早さに逆に追い付けなかったのは七瀬で、慌てて目を逸らして立ち上がり、何か違う事をとあたふたとし始める。 どうして俺が動揺してるんだ…たかが男1人着替えるくらい普通の事なのに。 変に意識をしちゃだめだと自分に言い聞かせ、ふと重要な事を忘れていたと気付く。 あんなにも込み入った話をしていた割には、自分は彼の名前すら知らないし聞いてもいない。そして自らも名乗っていなかった。 「あのっ、そういえば…」 思い立って振り向けば彼はちょうどパンツ1枚でキョトンと顔を上げた。ちょっと間抜けで七瀬はフフッと笑ってしまう。 「…?何だ、何かあるのか」 訝しげにそのままの姿で首を傾げながら聞き返してくる彼につい微笑むと、七瀬は首を横に振って後ろを向き直した。 「やっぱり後でで大丈夫です、服はちゃんと着てくださいね。俺お茶を入れてきますから」 名前も正体も知らない謎の人外である彼を、無意識にもちょっとだけ可愛いと思ってしまった事を七瀬は気付かずにキッチンへ向かった。
/74ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加