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意を結したように彼は俺の瞳を真っ直ぐと見つめ返し、口を開いた。
「俺が現れた事や様々な事について君が不思議に感じるのも無理は無い……だが、かなり入り組んだ内容だ。色々話しだすと果てしなく長くなる。それに俺は君を混乱させたくはない、知りたければ少しずつ徐々に理解して行ってくれると嬉しい」
一息に話すと彼は恭しく俺の手を取り手の甲に軽く唇を当て、何処か寂し気な上目遣いでこちらを見た。
「…そして願わくば、平和に心穏やかに生涯を送りさえしてくれればそれで良いんだ」
そう言うと指先にスルスルと移動し、次は軽くリップ音を立ててからソッと離れて行った。
触れられた手の甲や指先がジクジクと熱を持ったように熱く、咄嗟のことであって名残惜しさなんてある筈もないのにそこへ切なさを感じる。
それに、何だかよくわからないままに流されたような気がするし、とてつもなく恥ずかしい事をされた気もする。何だこれ何だこれ。
謎は謎のままだし、心臓は自分のじゃないかのように激しくバクバクドクドクと跳ねて顔からは火が噴き出しそうに熱い。暑い…。
思わずフゥ…と息を吐き、無意識に自分の手を胸の前に引き寄せた。
何かを言い返したいのに恥ずかしくて顔を上げる事すら出来ない。
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