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どうしようもない羞恥と落ち着かなさでしばらく俯き、口付けをされた方の手を無意識に摩っていると、彼が近付いてくる気配がして思わず身を縮こまらせて目を瞑った。 するとフワッと僅かに頭のてっぺん辺りに軽い羽が乗ったような感覚を感じた。 「何……してる、んですか?」 少しのリップ音と共に彼はン?と疑問符を浮かべるような反応をしながら、瞼を伏せたままその長い睫毛を惜しげもなく晒して降りて来た。 「君はとても不安そうに見える。まあ様々な事があったし無理も無いと……安心させたいと思った」 だからってそんな女の子やお姫様にするような態度はちょっと…いや、かなり恥ずかしい。今だって恐らく髪にキ、キスなんて事をしてたような。 彼はやはりちょっとおかしい。安心させたいからって急にこんな…。 もはや頭が追いつかず、どうにかこの空気を変えられないかと話を逸らそうと疑問を一つ投げかけてみる事にした。 「えっと…… じゃあ俺の事はいつから知っているんですか?」 彼はまた髪に触れて来ようとしていた動作を止めチラッと俺の顔を見ると、今度は迷い無くすぐに疑問に答えてくれた。 「正直に言えば俺は何世紀も前から、いや数千年前から君を知っている。それこそ今の君ならこの地に産まれ落ちた時から今まで、全てだ」 …予想の斜め上どころか、思いもよらぬ。 いや思いもよるはずが無いとてつもない爆弾発言を聞いてしまった気がする。 ただ空気を変え、話も彼の気も逸らしたかっただけなのに。
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