狂犬Refrein

Prologue

　足音が着いて来ている限り絶望的な状況は分かりきっていた。それでも人間という生き物は、皮肉な事に怖いもの見たさという性質を持っているものであり、ちらりと後ろを振り返ってしまった。

そしてこの絶望最悪な状況を再認識してしまったのである。なんたって黒服の鬼が増えていたのだ。

駄目だ逃げきれない、逃げ切るどころか追手は増えていた。こんなのもう流石に戦意喪失してしまう。

半ば諦めかけていると、この閑散とした道の少し先に赤くチカチカと光るライトが見えて来た。恐らく断続的に光るそれは車のハザードだと認識した。

ああ、あれだ。
あの車に乗せてもらって捲くしか無い。

一筋の希望が浮かべば不思議なもので、一体何処にそんな体力が残っていたというのか最後の力を振り絞り、停車している車までの距離でせめて少しでも引き離せればと精一杯加速して走った。

真っ暗だった視界に少しずつ車体が見えてくる。それはシルバー色をしたセダンだった。

あと少し。もう少し踏ん張れば乗せて貰える。逃がして貰える。

車の持ち主が快く乗車させてくれるとは限らないが、今の七瀬にはその一筋の希望に縋る他ない。