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はぁ……と手のひらで顔を覆いながら何度目かの溜め息を吐き、最早このデレデレとしきった人外に言葉の使い方を訂正するべく顔を上げた。 「ツッコミたい箇所は幾つかありますが、とりあえずその番番という言い方をやめてください…人間は普通、恋人または夫婦と言うんです。番じゃ全く、獣じゃないですか」 「あぁそうだった。つい癖で番という言葉を使いがちだ、気をつける」 彼はさも納得がいったという風になるほどと頷き、恋人恋人…と口の中で復唱した。 どうしてこの自称何千年も生きているという男はそんな知識、いや一般常識が足りていないんだ。どうやって生きてきたのだろうか。やはり人間ではないという時点で常識が違うのか? 「そして、俺は貴方の恋人だなんて了承していないです。何回も言うようで申し訳ありませんが…俺にとっては貴方は初対面です。なので急にそんな突然恋人だなんて、正直言って受け入れられません」 嘘か本当かは定かではないもののありとあらゆる非現実的なモノを見せられた以上、多少は彼の事情も理解したうえでこの様な断り方をする事は少々心が痛むが致し方ない。 自分の意見は決して曲げない主義なのだから。 だが七瀬の返事を聞いた彼の反応は予想に反して、随分あっさりとしたものだった。 「そうだな……それはそうだ、浮かれ過ぎるのも良くないな。君の言う事は最もだ。今の俺達には恋人というのは早過ぎるな」 てっきりまだ何か反論する必要があるかもしれないと思い、断り文句を幾つか頭に並べていた。 確かに知りもしない男と急に恋人だなんてなかなかに厳しい。 だがそれ以前に七瀬の脳内には別の恐怖のような、彼に近付き過ぎてはいけないという危険信号が鳴り響いているのもまた事実。 恐らくは人間ではない何かからの求愛。自分の記憶の中では今まで平凡に生きてきた七瀬からすると、到底受け入れられるものではなかった。
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