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1.5 謎の彼目線
"平和に心穏やかに生涯を送りさえしてくれればそれで良かった" なんて。
急に現れた男に言われる彼の身にもなれば全てにおいて理解不能な事くらい、人間の感情の機微に疎い自分でも分かる事だった。
こんな出会い方をするはずでは……いや、出会う予定も本当は無かったはずだったんだ。
時は冒頭へ遡り。
某オフィス街の最も高いと言われるビルの屋上で、男はその高さを恐れる事も無く撫然とした様子で立っていた。
その下の地上では米粒よりも遥かに小さく殆ど目視など不可能なサイズの人々が行き交い、そのうちの1人を見つけるとスッと目を細めて僅かに口角を上げて微笑んだ。
ああ今日も彼は健やかに生き抜き、平和に1日を終えると。
長い長い、果てしなく長い間あの彼を。
数えきれないほど存在してきた人間達の中でもたった1人の魂。ただ彼だけから目を逸らす事が出来ずに居る。
文字通りずっと見守り続けてきた。何千何百回もの彼の人生を守ろうとした。例え、彼には記憶が無くとも俺には彼との記憶がある。確かに共に存在した歴史があるのだと、己に言い聞かせながら。
彼の何千何百回もの人生のうち、その半分以上が俺とは出会わないまま終えた彼の人生。
そして1回目の人生以外は、全て俺が彼を守る事が出来なかった人生だった。
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