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「ほら、既に消えているだろう?大丈夫だ。何も心配いらない」
そう言って安心させるように彼に微笑みかけてみる。上手く出来ただろうか、こういう事は苦手だ。不恰好だったかもしれない。
「え…あ、そうですね。ほんとだ消えてる…良かった」
すると彼は俺が微笑んだ事に大層驚いた様子だ。そんなに不恰好だっただろうか…。驚く程におかしかったか。
様子を伺おうと彼の顔を確認しようと試みるが、何故か彼が避ける。顔が合わない。
斜め下を見つめたまま固まってしまった。嫌がる彼を執拗に追いかけるつもりはないので諦めるとする。
しかし気持ち耳が赤いが。今日は冷えていたか?人間と体感温度の違う俺には残念ながら分からない。
「今日は冷えているのか?」
「え?いや、今は秋なのでそんな事は無いと思いますが…適温だと思いますよ」
「そうなのか?君の耳が赤いから冷えているのかと思ったが」
そう言うと彼は首から上が更に赤くなってしまった。何故だ、人間の体温調節方法か何かか?
「気のせいですよ… お茶冷めちゃうので飲みましょう」
そうだ。せっかく彼が淹れてくれた茶だ、早く飲もう。
昔も彼はよく俺などの為に紅茶を淹れてくれた、懐かしい。
あれも美味かった、今でも思い出す事は容易だ。自分でもあの紅茶を再現しようとしたが出来なかった。あの時に聞いておけば良かったと何度後悔したか。
彼に連れられ席に座ると、菓子も出してきた。
「よかったらお菓子もどうぞ。お腹空いてたら全部食べちゃってください」
大きな袋に入った菓子1袋と何やら箱に入った菓子が1箱。
箱の方はミルククッキーと書いてあるが、袋の方はチョコビスケットと書いてある。
俺は迷わず箱の方のミルククッキーを手に取った。
「ん…… 美味い」
「これだけしか見つからなかったのですが、お気に召すのがあって良かったです」
そういって彼はチョコビスケットの方の袋を開け、そちらを食べ始めた。
実はチョコレートが苦手という事は内緒にしておいた。
ビスケットより、ただクッキーの方が好物だという事もあるしな。
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