1.5 謎の彼目線

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もぐもぐと、ただひたすらに咀嚼音だけが響く無言の空間で先に口を開いたのは彼だった。 「で…先程聞きそびれたのでお伺いしますが、貴方のお名前は何とおっしゃるんですか?」 「そうか名前…。名前という名前は無い」 「え?」 俺に名前が存在しないのは本当だ。呼び名なら数多くあるが、それも不名誉なモノばかり。 人間達やその他生物のように親や誰かに名付けられる事は無い。親も存在しないからだ。 しかし、それに値するとすれば君なんだ。俺は君を慕っていたのだから。 「えっと……名前が、無い?」 「ああ、名付け親など居ないしな」 君に呼ばれていた名前はそういえば……。 いやしかし、俺は今現在の君と居るのだから今の君が呼んでくれる名前が良い。 君に名付けて欲しいんだ。 そう言ったら君を更に困らせるのだろうか。 ああ、そんなに難しい顔をしないでくれ。まるで気の毒な事を聞いたような顔を。 別に俺は名前が無い事など気にした事は無い。 ただ君に昔貰った以外の呼び名など気にも留めた事が無かっただけで。 「じゃあ… 俺、何か呼び易いの考えても良いですか?」 「あっ、ああ…頼んでもいいか?」 ああ、君はまたそうやって。 かつて遥か昔に全く同じやりとりをしたよ。 "ねぇ、何か呼びやすい名前を考えようよ!俺が名前つけてもいい?" "え…ああ、頼む" 生きとし生ける物全ての生物の魂が視えるはずの俺が、君の魂を間違える訳など無く確信を持って今君と居る。 それでも何処かで、今こうして君と時を刻めている事を夢のようだと感じ非現実的だと錯覚していたらしい。 でも今再認識したよ。 変わらず君はずっと同じなんだと。
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