Prologue

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セダンの真後ろまで辿り着き、さあ乗り込むぞという瞬間だった。何者かに背後から腕を鷲掴まれたのは。 「来い」 妙に良いバリトンボイスで一声掛けられたかと思えば、男は七瀬の腕を掴んだまま長い脚で走り出した。 来い? 誰だろうか。俺は遂にヤバい人に捕えられてしまったのだろうか。 「ちょっと、離して下さい!一体何処にっ」 振り払おうと腕を精一杯引っ張ってみるものの振り向きざまの男に、横目で余計なマネはよせと一睨みされてしまった。眼光が鋭いにも程がある。 七瀬は喉が詰まったかのように何も言い返す事が出来なくなった。蛇に睨まれた蛙である。 抵抗は止め、大人しく男に着いて行くが。速い。普段運動など殆どしない七瀬は若干躓きつつも転けない様に必死だ。 一体この男は何処に自分を連れて行こうというのか。追っ手の奴等の仲間なのだろうか。 それにしては後ろから厳つい血相で奴等が追い掛けて来ている様な気がするのだが。これは自分を逃がそうとしてくれているのかもしれないとは思えなくない。 だが見るからに、この男も男で一般市民の様な雰囲気では無いから又謎なのである。 追っ手の奴等の仲間では無くとも、この男は男で別の恐ろしい人間なのかもしれない。
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