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「そうだな、犬といえば犬だ」
とりあえず、そう軽く返すと素直に頷いた七瀬は靴を履き始める。
「なるほど、だから床に寝ちゃうんですか?」
そうヘラリと笑って尋ねてくるが寝場所についてなど気にした覚えも無かったので、果たしてそうだっただろうかと少し返事に悩んでしまう。
「あ、紅さんの靴これですね」
悩んでいる隙にも、慌ただしく足元に靴を準備される。
「あ、ああ。ありがとう」
何だこの靴は、こんなにも履きにくい靴だったのか。人の姿になる事も滅多に無ければ、靴を脱ぐなどという事が無かった。
これはどう留めるんだ…この糸は何なんだ。
「こ、紅さん…… もしかして靴紐が結べない、ですか?」
モタついている俺の手元を見兼ねた七瀬が屈んで助け船を出して来た。
「すまない…… こんな時に。コレを扱った事が無いんだ」
なんて情けない、不覚だ。
もう少し人間界について学んでおくべきだった。
「気にしないでください。今度お教えさせていただくので、一緒に覚えていきましょう?」
そう言って七瀬は微笑むと、スルスルッと軽やかな手つきで俺の足元に纏わりついていた2本の糸を見事に縛りあげた。
「ああ… 情けない事この上無いが、頼む」
スッキリした足を見ながら立ち上がり、生活の仕方についてもこれから学ばねばと心に決める。
「ふふっ、じゃあ行きますよ」
「ああ」
今は、特に今日は七瀬を無事に守り抜く事に集中だ。浮かれている場合ではない。
そうして俺の中では、俺と七瀬の共同生活が幕を開けた。
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