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そして職場の前に到着した。
立ち止まって振り返ると、紅さんはキョロキョロと周りを見渡している。
「着きました。わざわざ送っていただいてありがとうございます」
そう言ってお辞儀をする。
紅さんは無言で頷くと、俺の横にあるビルを見つめた。
「きみの職場は此処なのか?」
"やぎ歯科医院"と書かれた看板を俺は指差して答える。
「ええ、そうです。俺ここの研修医をしているんです」
そういってポケットから名刺を取り出し、冗談任せに紅さんに差し出して言ってみた。
「もし歯とか口内の怪我したら診させてもらいますよ?」
それを聞いた紅さんはジーっと俺の名刺を見つめていたかと思えば、ふいっと横を向いてしまった。
「どうせ俺はすぐ治る。それにきっとお前達の歯と俺の歯は違う」
ん?何だか拗ねてる?
「え、今人間ですよね?口内は違うんですか?」
思わず身を乗り出して尋ねる。
どう見ても今人間の姿をしているように見えるんだけど。
すると彼は少し屈み、俺の顔の前に近付くとアーーーと大きく口を開けた。
あ、本当だ違う。
牙がある…… どちらかというと口内は獣という感じなんだ。
「すごい… 本当ですね、てっきり全て人と同じになってるかと思ってました」
それにしても牙も全て真っ白だ。
綺麗だな……。
「ッ!? な、なにする」
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