1.恋人の浮気現場に遭遇しました

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1.恋人の浮気現場に遭遇しました

 らしくないことはするもんじゃないな……。  玄関の真っ赤なパンプスを見た私は、そう思った。 「羽崎(はざき)?」  背後からの声にハッとして振り返る。 「大丈夫か?」 「なにが――」  私の肩越しにパンプスを見た篠井(しのい)さんは、ただでさえきつく見える瞳を細めた。 「どうする?」 「え?」 「乗り込んで証拠を押さえるか?」 「証拠……?」 「浮気の」 「そうと決まったわけでは――」 「あぁんっ!」  決まってしまった。  バスルームから聞こえる女性の嬌声。  確定だ。 「どうする?」  篠井さんが私の顔を覗き込む。  私は彼の顔を、目をじっと見た。  見ながら、考えた。  ドラマや漫画でよくある状況。  会う約束をしていない恋人の家を訪ねたら、玄関に女ものの靴、嬌声。  ドラマや漫画ならば、今後の展開として――。 一、見なかったことにして去り、何も言わずに許すか別れを告げる。『惨めになりたくないの……』なんて自己憐憫に浸るパターン。 二、乗り込んで罵る。この場合は別れることになるだろうが、とりあえずすっきりするかもしれない。 「羽崎?」  篠井さんの険しい表情が、心配に変わる。 「大丈夫か?」 「大丈夫……です。どうしたらいいかを考えていました」 「お前な、こんな時くらいはどうしたらいいかじゃなくて『どうしたいか』を考えろよ」 「……どうしたいか……?」 「いくぅ――っ!」  私がこの状況にどう対応すべきか考えている間も、女性の声は聞こえていた。 「そろそろ終わるんじゃないか?」  篠井さんは顔色を変えずに言った。 「ここで鉢合わせするか?」  それは良くない、と思った。
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