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実際には数秒だが数十分にも感じたファスナーとの闘いに降参し、俺は長いスカートの裾を持ち上げた。
ん?
「あの、これ、スカートじゃないんです」
「へ?」
「ごめんなさい。外しにくかったですよね、ファスナー。ちょっと歪んでてコツがいるんです」
夏依が自ら腰に手を回す。
つくづく格好がつかない。
「あ」
「ん?」
彼女の声に、視界不良ではあるが様子を窺う。
「お風呂……に……」
「一緒に――」
しまった。
夏依は、風呂は一人で入りたいんだ。
気まずい空気が流れる。
紳士的に夏依が風呂に入るのを待つか?
いや、どうせ汗をかくんだから風呂は後が望ましい。
いやいや、それは男の考えで、女は先に入りたがるもんだ。
けど、この状況でマテか? デキるのか?
マテが? セックスが?
鬼と言われた冷静沈着で仕事のデキる男、鬼篠――もとい、篠井光希も形無しで、正解がわからない。
いや、わかっている。
が、認めたくない。
待ちたくない。
部屋が暗くて良かった。
ぐるぐる考えているアホ面を見られなくて。
俺はぐっと奥歯を噛むと、決断した。
「風呂沸かして――」
「――口呼吸しててください!」
「はい?」
「汗かいたしずっとブーツ履いてて足も臭いので、匂いをかがないように口呼吸してください」
キスで窒息するのでは!?
生命の危険を感じたものの、夏依の気が変わる前に何も考えられなくしなければと思い立ち、俺は彼女自身がファスナーを外して手で持ち上げているスカートのようでスカートではないものを奪い取る。
布切れがストンと彼女の足元に落ちた。
ファスナーで時間も気持ちとカラダの余裕もを奪われ過ぎて、次のミッションは反則を決意。
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