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「荷物を持ってきます」
「え?」
「この部屋にある私の物を持ってきます」
「ああ……そう」
篠井さんは驚いている、というよりも呆れているようだった。
私は黒のローヒールパンプスを脱いで、勝手知ったる部屋を進んだ。
寝室にあるパジャマや服をバッグに詰め込む。
今朝、何となく大きなバッグを選んだのは、こんなことのためではなかったが、結果として役に立った。
キッチンに行き、茶わんやマグカップをゴミ箱に捨てた。
揃いの、彼の物も。
そこで気が付いた。
他にも揃いの物がある。が、ない。
カウンターのトレイに入っているはずの腕時計と、キーケースがない。
「もうっ! のぼせるじゃない」
女の声がやけに近くに聞こえて、探すのを諦めた。
そして、リビングを出た。さっきまで玄関にいた篠井さんの姿はない。
彼は偶然、居合わせただけだ。きっと帰ったのだろう。
「どれだけたまってたのよ!」
リビングと玄関の間。
バスルームに続く洗面所のドアが開いた。
そして、出てきた裸の女性。
「きゃあっ! 誰!?」
タオルさえ巻いていない、まさに一糸纏わぬ裸体。
白い肌、まあるい胸、細い腰、長い足、嫌みなほどに美しい身体は、下の毛さえ綺麗な逆三角形に整えられていて、加工された写真のようだ。濡れた髪すらそうであれば美しいと計算されたかのように片方にまとめられて肩にのせられ、その毛先から滴る雫が胸を濡らしていた。
対して、私はグレーのスーツに白いブラウス。スカートは膝が見えるか見えないかの長さで、ブラウスのボタンは一番上まできっちり留めている。
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