4.過去は忘れて……

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 あの女も言っていた。 「拡散なんて真似はしねー――」 「――頼む! 消してくれ!!」  卓は一体、何をしに来たのだろう。  私に許しを乞いに来たと思ったが、今は写真を消せと必死だ。  確かに、他人が自分の裸の写真を持ってるなんて嫌だろうが、それだけだろうか? 「わかったよ」 「え?」  篠井さんが私を離す。 「夏依、スマホは?」  私も篠井さんから離れて立ち上がり、スマホを取りにリビングに行き、戻った。  差し出された篠井さんの手にスマホを渡す。が、すぐに戻された。  私は顔認証でロックを解除し、また篠井さんに渡す。  篠井さんが何度か画面をタップして、卓に画面を向けた。  私からは見えないけれど、写真を消すのを見せているのだろう。 「これでいいか。気が済んだら、さっさと帰ってくれ」 「まだだ! 俺は夏依と――」 「――お前に夏依は返さない」  うんざりだった。  卓はわがままを言って駄々をこねているだけ。  いつまでこの押し問答を続けるのか。  驚きや恐怖、呆れ、嫌悪。そして、怒り。  この数日であらゆる感情に目まぐるしく翻弄され、いい加減疲れた。  肉体的にも、だ。  今日は、篠井さんの引っ越しをした。  私は重いものを運んだりしていないが、それでも疲れた。  そして、お酒も飲んだ。  で、倦怠感と睡魔。  とまぁ、色々と並べたが、ようはもう面倒くさくなったのだ。 「卓、二度と来ないで」 「夏依、頼む! もう一度だけ――」 「――無理。もう、顔も見たくない。さっきも、キスされて気持ち悪かった。もう無理」 「気持ち悪いって――」 「――帰って!」  限界だった。  もう、一瞬でも早く出て行ってほしい。 「気持ち悪いってなんだよ!」
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