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5.交際を申し込まれました
篠井さんと同居を始めてひと月が過ぎた。
その間、卓からの連絡はなく、代わりに知らない番号からの着信が数件あった。
篠井さんの方はわからない。
一度聞いてみたけれど、濁された。
同居生活は、順調だ。順調すぎて怖いほどに。
基本的に朝ご飯は一緒に食べている。
が、私の負担になるようなメニューを求められたり、文句を言われることはない。
何度か希望を聞いたが、本当に何でもいい、と言われた。
私はその言葉を素直に受け止め、自分の気分や冷蔵庫の中身次第で、好きにした。
彼は私が並べたものを黙って食べる。
だからと言って無関心ではない。
ちゃんと美味しいと思ったものはそう言うし、あまり好きではないものに関してもそう言った。
夜ご飯は一緒に食べたり食べなかったりだが、一緒に食べられそうな時は朝のうちに言われたり、メッセージがきたりした。
だからと言って強制ではなく、メニューが決まっていなかったり私が残業になりそうな時はお弁当やお惣菜を買って来てくれたりする。
洗濯は各自で、掃除は気が付いた方が気が付いた時にやる。
家事の一切が私の仕事だった卓との生活に比べると、格段に手間も気持ちも楽だった。
同居に不満はないかという篠井さんの問いにそう答えたら、彼は頬杖を突いて唇を尖らせた。
「そもそもさぁ、羽崎はなんで結婚したいんだ?」
「はい?」
「いや、聞けば聞くほど、なんであの元カレと結婚しようと思っていたのかが謎過ぎて」
「そう……ですか?」
「告られて付き合って、押しかけられて一緒に暮らして? 家事全部どころか金に関しても羽崎の負担が大きくて、転勤先の住まいまで手配してやって、てめぇは金も出さずに会いに来いの一点張り。で、来なけりゃ浮気って、羽崎が惚れる要素がひとつも見つからないんだが?」
要約されると、確かに酷いクズだ。
そして、それにすぐに反論できない私も大概だ。
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