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それでも、何もないと卓と付き合った三年が無駄でしかなかったようで、考える。
「自分を好きだって言ってもらえるのは、嬉しいですよね」
「それは、付き合い始めるにあたっての大前提だな。俺が聞きたいのは、羽崎があいつのどこを好きになったか、だ」
私も頬杖を突き、考える。
「……顔?」
「疑問形かよ。ってか、ああいうのが好みか?」
「好みかと言われると……」
「あいつの顔をどうこう言うつもりはないぞ? 見るからに優男というか頼りなさ気ではあるが、それがいいと言う女はいるだろうしな。俺とはタイプが正反対だが、まぁ――」
「――あ! それです。優しそうなところ」
私は人差し指を篠井さんに向けて言った。
篠井さんは私の指先を見て、ため息を吐く。
「優しそう、ってことは実際は優しくなかったってことだろ」
「……いや、だって、正直、好きだったこと自体忘れたいんですよ? どこが好きだったかなんて考えたくもないですよ」
「ああ、まぁ、そうだな。わり」
食材を買いに行ったスーパーの前で、食欲をそそる香りを漂わせていた屋台の焼鳥を口に入れ、串を引く。
篠井さんもまた、軟骨を頬張って力強く咀嚼する。
今日、作るはずだったおでんは、明日に持ち越しになった。
「篠井さんは、結婚したらどんな家庭を作りたいとか、考えてました?」
「どんな、とは?」
「まぁ、ベタですけど、明るい家庭とか? 芸能人がよくコメントするような?」
「ん~~~」
篠井さんが串を咥えたまま、考える。
「今更だが、流された感はあるんだよ。まぁ、強いて言えば? 依存することのない対等な関係で切磋琢磨して向上心を――」
「――社訓みたいですね?」
「……だな」
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