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「あ、すいません。決して、バカにしたわけでは――」
「――わかってる。俺も言ってて変だなと思った」
口から出した串を皿に置き、急ごしらえで作った大根の味噌汁をすする篠井さんを見て、普通にいい旦那さんになる人だろうにと思った。
「日曜大工とかしてそう」
「ん?」
聞き返されて、また思ったことを声に出していたことに気が付いた。
「いえ。前にもベタベタしたり束縛したりしない関係がいいとか言ってましたけど、やっぱりこう、ドライ? な関係を望んでいるんですか?」
「ああ」
違和感をもった。
彼の言うドライな関係というものが、私の想像するものと違うからだろうか。
卓の襲撃に遭った時、篠井さんは二度とも私を守ってくれたし、抱きしめて慰めてくれたりもした。
一緒に暮らして、晩ご飯はいるかを聞いてもウザがらないし、休日の買い物にも付き合ってくれる。
例えば私が彼の恋人だったとして、それはドライな関係だろうか?
「ドライ……とは?」
今度は聞き返される前に、頭の中の疑問を口にしてしまったことに気づいた。が、篠井さんは普通に自分への問いだと思ったようだ。
「俺の両親さ、めちゃくちゃ仲いーんだよ。そりゃあ、もう、見てるこっちが恥ずかしいくらい」
「はぁ」
「同時に、主に母親がなんだけど、すげー疑り深いっつーか、心配性でさ? 父親が飲み会で遅くなるっつーと浮気じゃないかって帰って来るまでそわそわしてて」
「へぇ」
私はまるで想像できない篠井さんのご両親の関係を、口の中にへばりつく餅ベーコンと格闘しながら聞く。
「俺はああいうの嫌だなと、子供ながらに思っててさ」
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