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「両親は仕事が忙しくて帰ってこないんだと思っていたんですけど、実はそれだけじゃなくて、それぞれ恋人がいたらしいです」
篠井さんが真剣な表情で、黙って私の話を聞いている。
篠井さんにしたら、自分の両親は仲が良すぎるって話の後だし、バツが悪いだろう。
それに、同情されたいわけじゃない。
私は唇をもごもごさせて、無理して笑った。
うまく笑えていたかはわからないけれど、そうした。
「中学生の時に両親は離婚したんですけど、その時に言ったんです。二人に。離婚するなら結婚しなきゃ良かったのに、って。そしたら、二人揃って同じことを言ったんです」
それまで、二人が揃っているところもろくに見たことがなかった私は、最後に揃って同じことを言ったことに、違和感しかなかった。
「大人になったらわかる、って」
私はぬるくなった梅サワーの缶を強く握った。
缶は少し凹んで、私はそれを隠すように飲み干し、今度は力いっぱい握った。
「両親とは?」
「え?」
「今も連絡を取ってる?」
首を振る。
「いえ。それぞれ再婚して、もう何年も連絡を取ってません」
「兄貴とは?」
また、首を振る。
「答えは出そうか?」
「え?」
「親に言われたんだろ? 大人になったら、親の気持ちがわかるって。わかりそうか?」
三度、首を振る。
「わかる前に、更に謎が深まりました」
「というと?」
「羽崎、は母の旧姓なんですけど、父と離婚した後、母は二度結婚したんです。今は……なんて名字だったかな」
決して自虐的にではなく、自然と笑えた。
母の現在の名字なんて、興味がない自分に。
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