1.スノードーム症候群

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 卒業証書を手に家に帰ると、大きな鞄を持った兄が階段を降りて来たところだった。 「どっか行くの?」  俺が言うと、兄は俺の二の腕を軽く拳で殴る仕草をした。 「卒業祝い、部屋んとこに掛けといたから」 「え、ありがと」  久し振りに家に戻ったと思ったら、髪は派手な金髪で、顎のところにピアスまでしている。 「兄貴、高校は?」  恐る恐る尋ねると、兄はするりと俺の脇を通り過ぎて玄関の方へと向かった。 「俺さ、今日から家出するから」 「家出って、なんで急に……」  玄関先に腰掛けてハイカットのスニーカーを履きながら、背を向けたまま兄は俺に言った。 「お前はさ、ずっとお前のままでいろよ」  どういう意味かと尋ねる前に、兄は重たそうな鞄を手にさっさと家を出て行ってしまった。  部屋のドアノブに掛かっていた黄色いビニール袋には大量のうまい棒が詰め込まれていた。  心底、兄らしい餞別だ。
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