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卒業証書を手に家に帰ると、大きな鞄を持った兄が階段を降りて来たところだった。
「どっか行くの?」
俺が言うと、兄は俺の二の腕を軽く拳で殴る仕草をした。
「卒業祝い、部屋んとこに掛けといたから」
「え、ありがと」
久し振りに家に戻ったと思ったら、髪は派手な金髪で、顎のところにピアスまでしている。
「兄貴、高校は?」
恐る恐る尋ねると、兄はするりと俺の脇を通り過ぎて玄関の方へと向かった。
「俺さ、今日から家出するから」
「家出って、なんで急に……」
玄関先に腰掛けてハイカットのスニーカーを履きながら、背を向けたまま兄は俺に言った。
「お前はさ、ずっとお前のままでいろよ」
どういう意味かと尋ねる前に、兄は重たそうな鞄を手にさっさと家を出て行ってしまった。
部屋のドアノブに掛かっていた黄色いビニール袋には大量のうまい棒が詰め込まれていた。
心底、兄らしい餞別だ。
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