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「姉貴も"変種"で、ふとした時に身体から火花が出るんだ。人体発火ってやつ」
リモコンの先端をソファの座面にぎゅっと押し付けるようにしながら、渡辺は言葉を続ける。
「診断では『火花は小さなものですぐに消えるから、何かに燃え移る心配はない』って話だった。でも、学校で浦野と同じように差別されて、散々苦しんで……」
青白い明かりに照らされる渡辺の横顔はどこか頼りなげに見えた。
俺はただ黙ったまま、彼の言葉をじっと待った。
「医者が言うには『思春期に差し掛かった影響で、制御できなくなったんだろう』って。
ある日、校内のエレベーターの中で突然身体に火がついた」
狭い室内に、苦しげな渡辺の声が滲むように広がった。
「乗り合わせていた二人の生徒にも燃え移って、誰も助からなかった」
「…………」
「姉貴は骨ひとつ残らず、燃え尽きて灰になった」
やっと理解できた。
教師達のどこか腫れ物に触るような態度も、渡辺のいつもどこか一歩引いたような距離感も、何もかも納得がいった。
「本当に何ひとつ残らなくて……もう二度と会えないって実感が今でもわかないから。ここに来れば何か見付けられるかなって思ったんだ」
渡辺は自嘲の笑みを浮かべる。
「引くだろ、普通に」
「なんで、引かないよ」
間髪入れずに俺がそう答えると、渡辺は驚いた顔をした。
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