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「凛、半分食べる?」
「何言ってんのマジいらないし」
「冷てぇなぁ」
隣でアイス咥えたままの俺が「ごめん」と言うと、橋元さんは困ったような顔で笑ってみせた。
「私はいいから。ほら、垂れるって」
洋輔の手元で滴り落ちるアイスを指差しながら橋元さんが言う。
どろっと溶け出して手首を伝うアイスを舌先でぺろりと舐める洋輔の仕草を見て、橋元さんはどこか気まずそうに視線を逸らした。
「んっ、当たった!」
ずいっとお日様に向かって洋輔が棒をかざすと。
彼の握りしめている木の棒の先に"ホームラン[1本当たり]"の文字が見えた。
「よっしゃ、俺これ取り替えて来るわ!」
返事も待たずに一目散に駆けていく洋輔の後ろ姿を、橋元さんと俺は並んでぽかんと見送った。
「なんかごめんね……いつもあんなでしょ、あいつ」
「謝るようなこと何もないよ。面白いし、いい奴だよ」
俺の言葉を聞いて橋元さんは少しほっとしたような顔をした。
握ったままのアイスの棒を見つめながら、ぽつりと呟いた。
「こんな風に帰り道にコンビニ寄ってアイス買ってさ、帰り道に友達と他愛ない話するとか……俺には一生来ないと思ってた」
「そうなの?」
「うん。今、勿体無いくらい幸せだって思ってる」
「そっか」
ハラハラと舞い始めた紙吹雪を見上げて、橋元さんがふと表情を綻ばせる。
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