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英語の授業を受け持つ先生は、20代前半くらいの男の人だった。
垂れ気味の目尻と顎の黒子、近付くといつも煙草の匂いがした。
「英語は聴いて覚えるのが手っ取り早い」と言い張って、室内まで台ごと引き摺ってきたテレビで映画を観るのが常日頃だった。
よく言うと『整然とした』悪く言うと『堅苦しい』周りの大人たちと、彼はどこか違う気がしていた。
その日は"男が刑務所から脱獄する映画"を途中まで観て「続きは次の授業で」と言われた。
一緒に続きを観るのを楽しみにしていたけど、後日英語の授業に現れたのは彼とは違う教師だった。
「前の先生はどうしたんですか」と尋ねると、「彼は一身上の都合で辞めた」とだけ説明された。
新しい教材として持ち込まれたのは美女と野獣のアニメ映画だった。
他に教材がないらしく、同じ美女と野獣の映画を三周したところで俺はようやく自覚した。
おそらく自分は男の人の方が好きなんだ、と。
『一身上の都合』というものがまだ理解できない子供の俺にも、それだけはハッキリと分かった。
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