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状況が変わったのは中学三年の夏だった。
『変種は感染する』という噂が広まったからだ。
唾液で感染するという噂もあれば、性交渉で感染するという話もあった。
中学生にとってその類の話題は、まさに好奇の的だった。
後ろから忍び寄ってきて、俺の背中にぴたりとくっつくとクラスのお調子者がふざけて腰を振り始める。
「アアァ〜ンッ、浦野君の変種がうつっちゃう」
それを聞いてクラス中の男子生徒が笑い始めた。
動揺すればつけ込まれると分かっていても、目の前で舞い上がる紙吹雪を降り止ませる方法はなかった。
いつからか、中村さんはもう塵取りを持ってきてくれなくなっていた。
無理もないと思う。立場が逆だったら、きっと俺も同じ事をしていただろう。
給食はひとり家庭科室で、プールはいつも見学、手洗い場さえ使わせてもらえなかった。
先生は「すまない」と申し訳なさそうに謝ってくるけれど、二言目には決まって「でも全部お前の為を思ってのことだから」と言った。
他人に期待しても無駄だ。
自分に期待するのは、もっと無駄なことだ。
一年間、俺はひたすら感情というものをミュートにして過ごした。
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