7人が本棚に入れています
本棚に追加
中学の卒業式の朝。
教卓の前に立った担任が、窓際の席に座っている俺に向かって言った。
「みんな胸の内にわだかまりを抱いたまま卒業っていうのはさ。先生、違うと思うんだ」
こんな話されるなんて微塵も思っても見なくて、俺は顔を引き攣らせた。
「浦野をいじめてた奴、この場を借りてちゃんと謝罪してくれ」
暫くの間、沈黙が訪れてから数人の男子生徒がそろりと席から立ち上がってこちらに振り返った。
「浦野、今までひどい事とか言ってごめん」
前に俺を揶揄って来たクラスメイト達が次々と頭を下げてくる。
首元を締められているような心地がして、俺は何も言えなかった。
「仲直りの握手してお仕舞いにしよう」
笑顔を浮かべながら近づいて来た担任がそう言って、ぐいっと俺の左腕を掴んだ。
同じように担任に腕を掴まれて握手をさせられる生徒は、俺の指先に触れた一瞬だけ緊迫したような表情を見せた。
感情をまた抑えきれなくなって、ぶわっと辺りに紙吹雪が舞い上がる。
教室内にいる他の生徒達が床に舞った紙吹雪を片付ける手助けをしてくれた。
担任は俺の肩に手を置いて「気にするな」と言った。
気にせずにすむくらい俺が鈍感だったなら、どれだけ生きやすかっただろう。
散らばった色とりどりの紙吹雪を拾い上げながら、そんな事を考えていた。
最初のコメントを投稿しよう!