Chapter1.【1/Linkage System】

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Chapter1.【1/Linkage System】

 生暦2070年 6月20日。  故郷であるアイリアでは、ちょうど梅雨の時期ではあるが、俺が今暮らしている【ディケイル】では、時期によって雨足が増えたり、極端に気温が上がったりする事もない。  気温も気候も安定し、比較的に暮らしやすい国だ。  ただ一つ、難点を挙げるとすると…… 「……カミル。レイと連絡は取れたか?」 「駄目です。あれから何度も確認しているんですが、一向に返事が無くて……!」 「そうか。となると恐らくレイは殺されたか、もしくはBIRTHに()()()()()()のどちらかだろうな」 「ちょっ、ユウリさん! 冗談でもそんなこと言わないでください!」    冗談でも無く呟いた俺の言に対し、部下であるカミルが咎めるように声を挙げた。  ディケイル国の首都、ワルズより南へ100kmほど離れた場所にある小さな町、ラムド。そこがいま俺が暮らす場所であり、勤務地でもある。  そしてこの町には、当然の如く「BIRTH」が生息している。  寒い地域では生きる事が出来ない蜚蠊(ごきぶり)とは違い、BIRTHというのは世界中()()()()()()場所があれば、どこだろうとも出現する。  何故なら奴らは、「地球外寄生命体」と呼ばれている通り、人体に寄生し、体内で成長する化け物だからだ。  BIRTHは、単体での大きさは2mm程度しか無く、その上外殻が透明で少し大きめのミジンコにしか見えない。その為、見つける事さえ出来れば殺すのは容易いのだが、その体躯の微小性と透明な外殻から、まず目視で見つける事は困難だ。  そして奴らは、その特性の優位性を知ってか知らずか、人間を欺き、人体に入り込む。  入り込んだ奴らは、真っ先に人間の生殖器を目指し、2〜3日かけて生殖器と同化。その後脳神経を乗っ取り(ジャック)、「種を残す生存本能」を強く刺激するフェロモンを放出させ、次第に正常な感覚を奪い去る。  その後は無差別に、男女構わず種を植え付け、一週間かけて遺伝子組み換えを行った後に外殻を形成する。  5年前に俺たちを襲ったBIRTHも、元は普通の人間だ。それが全長3mを超える化け物に変貌させると言うのだから、地球の大陸の半分を支配下に置かれてしまうのはある意味で当然と言えた。    だからと言って、奴らに支配される生活を受け入れる気はさらさら無いが。一先ず、目先の事件解決と……感情に呑まれて、今にも飛び出していきそうな部下を落ち着かせるのが先か。  ──そう思案を巡らせた矢先、建物が倒壊する音と男の悲鳴が同時に耳朶を打った。 「この音……ユウリさん!」 「わかってる。行くぞ」  俺はホルスターからベレッタを抜きさり、いつでも敵を射抜けるようスライドを引いて走り出す。声の主からしてレイでは無い事はわかるが、だとするとBIRTHに寄生されていた男性の方か。  元々、いつBIRTHが男のコントロールを奪い、動き出しても不思議では無かった。寄生に2〜3日、完全にコントロールを奪われるまでに最低7日、最長で12日程。  監視対象となった時点での経過日数がわからない時点で、男はいつBIRTHに全神経を奪われてもおかしくなかったのだ。  それでも、男がBIRTHに寄生されているという「確証性」がなければ、男を取り押さえる事が出来ないのも実情である。  疑い始めれば、この地球上にいる全人類がBIRTHに寄生されている可能性だってあるのだ。 「レイ、頼む……! 無事でいてくれ……!」  部下の縋るように吐き出される言葉に、俺はいつの日かの自分を重ねてしまう。「無駄だ」「もう死んでる」。つい口から出かかった言葉達を何とか喉の奥に押し込みながら、炸裂音がした現場に急行した。
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