9人が本棚に入れています
本棚に追加
「……こうちゃん?」
妻の明美がリビングの電気を点けた時に、浩介はそんなに時間が経っていたのかと驚いた。
ダイニングテーブルのイスに座ったまま、自分は随分と長い間考え込んでいたらしい。
「…ああ。悪い。あれ?新と真は?」
「私の実家にお泊まり。今日は帰ってこないよ」
「あ…そうか、そうだったな…」
様子のおかしい浩介には気づいているのだろうが、明美は無理に聞いてこようとはしなかった。
やがて、まだどこかぼんやりとしている浩介の目の前に、ことり、とコーヒーが入ったマグカップが置かれる。
「ありがとう」
コーヒーの香りが鼻をくすぐる。
浩介が座っているイスの横に、明美が座った。
ダイニングテーブルの上には、シワがよってくしゃくしゃになってしまった、手紙が一通、置かれている。
「……なぁ、明美。話聞いてくれるか…?」
「もちろん。こうちゃんが話してくれるなら、なんでも聞くよ」
浩介は今日の出来事を噛み締めるように、話し始める。
明美は相槌を打ちながら、聞いてくれる。
「……俺は、どうすればいいんだろうな」
「こうちゃんがしたいようにしていいんだよ。あの木を迎えに行っても行かなくても。この手紙を読んでも読まなくても、いいんだよ?こうちゃんにはその権利があるんだし、私はこうちゃんの選択を尊重する」
読まなくても、いい。
浩介は、その言葉で、逆に心が決まった。
手紙に手を伸ばし、よってしまったシワを手で伸ばすと、開封して読み始めた…。
最初のコメントを投稿しよう!