5 心の傷

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 「……こうちゃん?」  妻の明美がリビングの電気を点けた時に、浩介はそんなに時間が経っていたのかと驚いた。  ダイニングテーブルのイスに座ったまま、自分は随分と長い間考え込んでいたらしい。    「…ああ。悪い。あれ?新と真は?」  「私の実家にお泊まり。今日は帰ってこないよ」  「あ…そうか、そうだったな…」  様子のおかしい浩介には気づいているのだろうが、明美は無理に聞いてこようとはしなかった。  やがて、まだどこかぼんやりとしている浩介の目の前に、ことり、とコーヒーが入ったマグカップが置かれる。  「ありがとう」  コーヒーの香りが鼻をくすぐる。  浩介が座っているイスの横に、明美が座った。  ダイニングテーブルの上には、シワがよってくしゃくしゃになってしまった、手紙が一通、置かれている。  「……なぁ、明美。話聞いてくれるか…?」  「もちろん。こうちゃんが話してくれるなら、なんでも聞くよ」  浩介は今日の出来事を噛み締めるように、話し始める。  明美は相槌を打ちながら、聞いてくれる。  「……俺は、どうすればいいんだろうな」  「こうちゃんがしたいようにしていいんだよ。あの木を迎えに行っても行かなくても。この手紙を読んでも読まなくても、いいんだよ?こうちゃんにはその権利があるんだし、私はこうちゃんの選択を尊重する」  読まなくても、いい。  浩介は、その言葉で、逆に心が決まった。  手紙に手を伸ばし、よってしまったシワを手で伸ばすと、開封して読み始めた…。  
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