1 エタニティ

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 「………?」  坂崎浩介(さかざきこうすけ)は、何かに呼ばれたような気がして、足を止めた。  会社の同僚が入院している病院に見舞いに来て、帰るために車を止めた駐車場に行こうとした時である。  辺りを見回してみるが、誰もいない。 「気のせいか…?」  再び歩き出した、その時。  また、呼ばれた様な気がして振り返る。  そこには一軒の店。  中を覗いてみると、まるで森のようだ。  店の左壁には、木製の板がある。板には、さりげなく「eternity」と彫られている。店名、だろうか。  エタニティ…?永久とか永遠とか、そんな意味だったよな…?  浩介は普段、植物に興味はないのだが…何か心惹かれるものがあって、店へと足を踏み入れる。    浩介を包み込むような木々の香り…。  真っ直ぐに店の奥へと続く通路。その左右には、所狭しと木や花が置かれている。    花屋…?ガーデニングショップとか、そんな感じか…?  しかし、そこは普通の店とは違っていた。  バラや、カーネーション、ユリ…といった、植物にはあまり詳しくはない浩介でも知っているようなものが一切ないのだ。  独特の形をした葉や、幹の質感、花をつけているものも色や形に個性がある。  それに、数はそれなりにあるが、同じ種類のものがない。  浩介が店の奥へと進んでいくと、大きな木製のテーブルがあり、その向こうには、ひときわ大きな木が枝葉を茂らせている。  その木を見上げていると、浩介の右側から気配がする。  控えめに、おずおずと袖を引くような…。  そこには、一つの鉢があった。  丸みはあるがすっきりとした形の葉を数枚付けているだけの、まだ若木の様だ。  「その木が気になりますか?」  浩介が視線を上げると、そこには小柄な女性が一人、いつの間にか立っている。  「あ…。えっと。気になるっていうか、なんか呼ばれた気がしたっていうか…」  浩介の言葉に、女性はにっこりと微笑む。  「よろしかったら、この木、お家に連れて行ってみますか?」  「えっ!あ…いや、植物を育てたことなんてないですから」  「誰にでも初めてはありますし…それなら、トライアルという事でどうでしょうか?」  「…トライアル…ですか?」  「はい。上手くやっていけるかどうか、しばらく一緒に暮らしてみたらいかがでしょうか」    そんなに都合の良い事あるだろうか…?  考え込む浩介に、女性は言う。  「うちの、木々や花々は。ですから、トライアルはうちにとっても大歓迎なんです」  「人を、選ぶ…」  ことり、と、女性は浩介の前に例の鉢を置く。  「…嫌な感じ、しますか?」  言われて、改めて木と向き合う。  嫌な感じは、しない。むしろ懐かしいような、そんな感じがする。  「いいえ。それはしないですけど…」  「じゃあ、決まり。ということで。そうですね…半年ほど一緒に暮らしてみてください」  「…あの、お代は…?」  「あ〜えっと。相性もありますから、トライアル終了後で結構ですよ」  女性は、鉢を持つと丁寧に浩介へと差し出した。  浩介は、鉢を受け取ると、何となく温かな気がして、首を傾げた。  「………?」  「あ…そうだ。これ、お渡ししておきます。何かあったら、気楽に連絡下さいね」  名刺を渡された浩介は、片手で受け取る。  名刺は実にシンプルだった。  「eternity」 萩野凛子(はぎのりんこ)  それだけで、裏面には電話番号のみ。住所の類は書いていない。    「それでは、半年後、お待ちしていますね」  その言葉に送られて、浩介は鉢と共にエタニティを後にした。  女性…凛子は、店の大木を見上げる。  「上手くいくと、いいね」  大木は、風もないのにさわさわと葉を揺らした…。        
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