四半世紀のこと

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「親父……」 「すまなかったな、紫月(ズィユエ)――」  私は厳しいだけの父親だった。  だが、それで良かったと思っている。ともすれば生死が紙一重のような特殊なこの街で、お前が自分の身を守れるように導くことが何より重要だった。  敢えてやさしい言葉をかけずにきた。  敢えて微笑まず、あたたかな触れ合いを持たず、ただただ厳しく接してきた。  瞳を細めて我が息子を見やる飛燕の傍らで、僚一が彼に代わって静かに告げた。 「そうか――なるほどな。あたたかい感情は時に強い信頼や絆を生むが、同時に脆さにも繋がりかねない。ましてや命がかかった絶体絶命の中にあっては、時に恨みを伴うくらいに厳しい感情を植え付けた方が結果的に身を守れることに繋がる場合もある。お前さんは紫月(ズィユエ)が無事で、一日でも長く生きられるなら、自分自身が嫌われることも恨まれることも厭わなかったということか」  そうであろう? と、交互に父子を見やった。 「うむ――そんなに格好のいいものではないがな。ただ……今こうしてあの羅辰(ルオ チェン)から解放されてみれば、紫月(ズィユエ)には辛い思いしかさせてこなかったと……申し訳ない気持ちでいっぱいだ」  すまなかった、そう言って飛燕はそっと息子の肩に手を置いた。
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