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「そうだ……! ところで親父……頭目のことだけど。お邸から九龍湾へ逃げられる道を掘ってたって本当なのか?」
みすみす逃してしまって大丈夫なのかと心配そうな顔をする。だが、飛燕は案ずるなと笑ってみせた。
「ヤツの行く先は決まっている。僚一や周隼殿はご存知かと思うが――」
デスアライブという組織を知っているだろう? と訊く。
「デスアライブだと? まさかあの羅辰はその組織と関係があるってのか?」
デスアライブ。それはどこの国にも属さない闇組織の名だ。
麻薬、武器、金、そして都合の良く使い捨てにできる人材。世の中の悪をすべて牛耳っているような闇の代名詞とも言われて恐れられている組織だ。僚一も隼もその名だけは聞いたことがあるものの、実態を掴むところまではいっていない。同じ裏社会でも、隼が治めるこの香港ように国や地域の単位で統治する者がいるわけではなく、世界中に散らばっておいそれとは正体を掴みづらくしている煙のような組織なのだ。
「デスアライブについて俺たちが把握しているのは、実態を現さない非道者の集まりだということだけだ。聞くところによると、人間を意のままに操ることのできる特殊な薬物を開発していて、それを食らった者たちは意思どころか恐怖や痛みといった感情をも削ぎ取られると言われている」
「ああ――いわば人間を戦闘用のロボットに変えるという薬物だそうな」
僚一と隼が交互に言う。
裏の世界での共通認識では、その薬物を通称DAと呼び、危惧されているそうだ。デスアライブから取った頭文字である。
「まさかあの羅辰がその組織に属していたというのか――」
そう訊いた二人に、飛燕は静かにうなずいてみせた。
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