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新しい未来へ
それからひと月後――。
焔の邸に揃って姿を見せたのは、僚一、遼二父子の他に一之宮飛燕と紫月の二人も一緒だった。
「僚一、カネ! それに飛燕殿と紫月も……」
わざわざ挨拶の為に再びこの香港を訪れてくれたのかと、焔は感激の面持ちで四人を出迎えた。
ところが――だ。
なんと飛燕と紫月は日本での暮らしを離れて、これまで通りここ九龍城砦内の遊郭街で生きていきたいと言ってくれたのだ。
「ここでって……本当によろしいのか?」
焔が驚いたようにして一之宮父子を見やる。
「はい。私どもは長い間ここで生きて参りました。経緯はどうあれ、この街は既に私どもの故郷に他なりません。微力ではありますが、ここの立て直しに少しでもお役に立てればと思うのでございます」
飛燕の言葉に付け足すようにして、僚一もまた是非とも彼らを迎えてやって欲しいと言った。
「焔、お聞きの通りだ。二人はここでお前さん方と共に遊郭街を本当の意味での良い花街にすべく尽力してくれるそうだ。どうか意を汲んでやってはもらえぬか」
「それは……もう、有難いのひと言に尽きますが……。ですがよろしいのでしょうか? 故国のご実家には……」
飛燕の実家は代々寺を守ってきた家柄だと聞いている。
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