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焔邸、中庭――。
「ところでカネ。お前さん、俺たちと人生を共にしたいなどと言うが、実のところ本当に共にしたいのは俺たちではなく紫月と――ということじゃねえのか?」
これから事務所を構える焔邸の庭を見て歩きながらニヤっと不敵な笑みで友を見やる。
「バ……ッ! 何を急に」
「照れるな。俺にはちゃんと分かってるんだ」
冷やかすような視線を向けられて遼二はタジタジだ。
「そ、そりゃまあ……遊郭街を立て直すに当たって紫月とは今後も密に連携を取っていかにゃならんしな……」
「連携ね。まあいい。どうであれお前さんが側にいてくれれば俺は万々歳だ。これまで目の届かなかった細かいところまで気に掛ける余裕ができるわけだからな」
何もかもお見通しというように微笑まれて、遼二は参ったとばかり額に手をやってしまった。
「そういうお前さんこそどうなんだ」
「どうとは?」
「例の雪吹冰のことだ。遊郭街から羅辰がいなくなった以上、もう冰は本当の意味で自由だ。婚姻の必要も無くなったのだろう?」
ところがどういうわけか、遼二らが焔邸を訪れた際にあの冰が共に住んでいるらしいことを知った。つまり、本来ならば黄老人の住む居住区にある自宅に戻れるはずなのだが、焔はそのまま冰を自分の邸に留めているというわけだ。しかも老人も一緒に――だ。
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