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「お人違いです……。僕は本当にフレイさんという方とは……」
「どこまでもシラを切るつもり? じゃああなたの家はどこよ! 今からどこに帰ろうっていうの!?」
「こ、皇帝様のお邸です。僕は今、父と共に皇帝様のお邸にご厄介になっていまして」
「ほら見なさい! やっぱりフレイのところに住んでいるんじゃないの!」
「……? あの、フレイさんというのは」
「あなたの言う皇帝様のことよ! 皇帝周白龍!」
「焔のお兄さんのこと……ですか?」
そう訊くと、女は更に眉間を筋立てた。
「焔のお兄さんですって? あなた、彼のことをそんなふうに呼んでいるっていうの!?」
冰にとっては言われている意味がまるで分からない。女が何をこうまで苛立っているのかも――だ。
「まったく! 図々しいにもほどがあるわ! 彼をその名前で呼べるのは彼の家族身内か、よほど懇意にしている裏の世界のお仲間だけなのよ!? せいぜい字か、普通はイングリッシュネームのフレイムって呼ぶのが常識だわ」
「フレイム……焔のお兄さんはフレイムとおっしゃるのですか?」
「ほらまた! 焔って言った!」
いい加減にしなさいよと女の苛立ちに拍車がかかる。
「すみません……」
だが、冰にしてみれば正直なところ難癖以外の何ものでもない。第一、今の今まで焔にイングリッシュネームがあること自体初耳だったし、焔本人からも呼び方について指摘されたわけでもない。というよりも、皇帝様と呼んでいたところ、『焔』でいいと言われたくらいなのだ。
本人がそう呼べというのだから他の呼び方――ましてやイングリッシュネームで呼ばなければならないなどとは思いもしなかったといえる。
だがまあ、よく考えれば、あの紫月とて『皇帝様』と呼んでいることに気付く。遼二は『焔』と呼ぶが、それこそ裏の世界の親しいお仲間といえる間柄なのだろうから当然といえばそうか。
「すみません、失礼を……。無知をお詫びいたします」
存外素直に謝った冰の態度に溜飲を下げたのか、女はわずかばかり険をゆるめると、今度は少々得意げな顔つきで驚くようなことを言ってよこした。
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