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その夜、黄老人がカジノの仕事から戻って来ると、冰はすぐに女のことを打ち明けた。むろんのこと、焔にはひと言たりと告げてはいない。
話を聞いた黄老人もまた、自分たちのせいで皇帝殿に不自由な思いをさせているのだと心を痛めたようだった。
「そうか……そんなことがあったのか。確かにわしらはあの御方のご厚意に甘え過ぎていたやも知れんな」
もしかしたらゆくゆくはその女性と結婚などという話が持ち上がるかも知れない。その時に自分たちがお邸に厄介になっていては、焔にとってもその女性にとっても迷惑な話であろう。早々に暇をすべきだろうと老人もそう考えたようだった。
「皇帝殿にはわしからお伝えしておく。明日にもここを出て、元いたアパートに戻れるよう、お前も荷物をまとめておきなさい」
「うん……分かった、じいちゃん」
その夜、荷物をまとめながら冰の気持ちは重かった。
(焔のお兄さん……とてもよくしてくださったなぁ。もうお顔を見ることもできなくなると思うと、ちょっと寂しいけど……)
だが、それも焔の幸せの為だ。
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