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「兄さん、お待たせいたしました。連れて参りました」
菫が少年の肩を押して紫月らの前へといざなう。
驚いたのはその容姿だ。写真で見た印象も確かに端正な顔立ちの美少年といえたが、実物はその比ではない。この紫月という男に勝るとも劣らない、まさに生きた人形の如く美しさに思わず目を奪われる。焔も遼二もしばしはポカンと口を半開きにしたまま、視線を釘付けにさせられてしまった。
「皇帝様、雪吹冰君だ。冰君、こちらは城壁の皇帝様とそのご友人の鐘崎遼二さんだぜ」
紫月に紹介されて、冰という少年はおずおずと頭を下げた。
「……お初にお目に掛かります。雪吹冰と申します」
胸前で両手を合わせ、クイと膝を折って敬意を表す仕草が美しい。おそらくはここに来た時からそのようにしろと教育を受けたのだろうが、こんなふうにされれば誰でも悪い気はしない。というよりも、もしもこれが男娼を求めてやって来た客ならば一目で虜にさせられることだろう。
先程この紫月という男が、『あの子は容姿だけじゃなく知性もあって性質もいい』と言っていたが、誠その通りだったというわけだ。
実に親切心からこの少年を娶ろうと思っていたものの、彼とならその親切心を通り越して本心から共に暮らしてみたいという興味が湧いてしまうほどだ。かといって、それが即恋情と結びつくというわけではないものの、焔は図らずも胸が騒ぎ出す気がして、高揚する気持ちに戸惑いすら感じさせられるのだった。
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