皇帝と云われた男

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 街の外れに行くに従ってこの城内で暮らす人々の住処もある。作り物ではあるが、植樹によって緑も心地好く配置され、リゾート地も顔負けといったところだ。地上の摩天楼にこそ及ばずとも、混雑する繁華街の狭い路地などに比べれば、こちらの方が整然としていて気持ちがいいくらいだ。  だが、その存在を知る者は限られていて、出入りもまた然りであった。変な話だが、香港に住む一般人にとって、自分たちの足元にこんな街が栄えているなどとは思いもせずに生涯を終えていく者も五万といることだろう。  この特殊な街、通称『九龍城』を統治するのが(イェン)の生家である周一族なのだ。  国内外からの要人を始めとした各国の大富豪や著名人らが秘密裏ながらもこぞって訪れる華やかな砦、その中で動く金の額も一線を画す。  当然のことながら悪もはびこる、ある意味では快楽と危険が表裏一体といえる。統治する者がいなければ、途端に無法地帯と化し、遊興どころか殺戮や戦を伴う荒廃した街となってしまうだろう。
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