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その後、紫月の言葉に甘えて今晩はここに泊めてもらうことになり、焔はこの雪吹冰という少年と一晩掛けてじっくり話し合うこととなった。その間、遼二の方は紫月自らが相手を買って出てくれるという。
「すまねえな、兄さん。男遊郭の頭であるアンタに直に相手させちまうなんて」
遼二は申し訳なさそうに頭を下げたが、紫月は気にするなと言って笑った。
「いいってことよ! どうせ暇だし、日本の話でも聞かせてよ」
「ああ、恩にきるぜ」
こうして焔は冰少年と、遼二は紫月と共に一晩を明かすこととなったのだった。
◇ ◇ ◇
焔らには普段紫月が応接用として使っている客間の中から一室を当てがってくれた。男遊郭の頭である彼専用というだけあって、たいそう格調高い雅な設えの部屋だ。緊張の為か身を固くしたまま突っ立っている冰に、焔は椅子を勧めた。
「まあ座れ。俺は周焔という。城壁内の人々が安全に暮らせるよう目を配る務めを担っている者だ」
「あ、はい……。雪吹冰と申します」
冰もまた、城壁の皇帝の存在は知っているのだろう。先程と同様に膝を折って深々と挨拶を返す。その仕草に焔はクイと瞳を細めた。
「お前さん、それ――」
「は――」
「その挨拶の仕方はここに来てからそうしろと教わったのか?」
胸前で手を合わせて敬意を示すなど、まるで古の宮殿に仕える従者の如くだからだ。ところがどうもここで教わったわけではないらしかった。
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