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この父、周隼は香港の裏社会を治める頂点にいる人物――つまりマフィアの頭領だ。焔はその次男坊として生まれ、長兄と共に組織を支える立場にあった。
ところが焔は父と妾の間に生まれた、いわば妾腹の身であった。その為、組織内の者たち全てが好意的に扱ってくれるというわけではなかった。中には長兄同様に重んじてくれる者も皆無ではなかったが、大半は疎ましい視線を向けてくるといった具合である。まあ、面と向かってあからさまに敵視されることはさすがにないものの、妾の子に後継を盗られてなるものかと、腹の中では誰しもがそう思っているだろうことはひしひしと感じていた。
とはいえ、腹違いの兄であるその人は、焔のことを実の弟として幼い頃から大切に扱ってくれていた。名を周風という。
風が焔を巻き上げて天高く勢いを増すが如く、兄弟仲睦まじく、互いに助け合い、強く生きていって欲しいと名付けられた名だそうだ。
継母である香蘭という本妻もまた然りだった。彼らは焔に対してはもちろんのこと、その実母――つまり妾女性――のことも決して蔑ろにすることなく、本当の家族として仲睦まじく手を取り合っていこうと言ってくれた。ゆえに焔母子は継母や長兄に深い感謝の念を抱いて暮らしてきたのである。
焔は確かに家族からはこうして大事にされていたが、周囲からの敵意もあってか兄の風よりは野生味のある男に育っていった。むろん物事の善悪はきちんと心得ていて、汚い手は一切使わないものの、少々扱い難い荒くれ者や、チンピラタイプの輩に対しても心を掴むのが巧く、自然と従えるオーラを身につけていった。
父の周隼が焔を九龍城砦に送り込むことにしたのも、彼の実力を周囲に示す為である。香港裏社会の闇と言われた砦を焔に預け、組織の拠点が置かれている高楼から遠ざけることで、表向きは後継争いから外した形と見せ掛ける。そうすることで組織内――特に頭領側近と言われる重鎮方――の溜飲を下げると同時に、その闇を統治させることで焔の才覚と存在を周囲に認めさせるのが目的でもあった。
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