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それが今から五年程前のことである。焔は大学を修業後の二十二歳で砦に入り、二年もする頃には父の期待を遥かに上回る統治力を発揮した。それから更に三年、今では九龍城の皇帝と崇められるほどに頭角を表していた。
地上の世界は父の隼と長兄の風が治め、砦は次男坊の焔が牛耳る。まさに頭領・隼が脳裏に描いてきた理想の構図が確たる地盤の上に築かれる形となっていったのである。
「ここをお前に任せたのは正解であったな。今では取り立てて争い事もなく、この城内に住む者がまずまずの安泰で暮らせるようになった。お前の才覚だ」
「もったいないお言葉でございます」
満足げな父に敬意を表しながら焔は茶を勧めた。
「ところで焔。実はな、ひとつ頼まれて欲しいことがあるのだ」
「は――。何でございましょう」
「黄という男を知っているか? 城内のカジノでディーラーをしている老人だ」
「はい、名は存じております。ご高年だそうですが、大層腕の良いと評判でございますな」
「そうだ。彼は私の父の代からディーラーで活躍してくれていてな。この城内に移って来る前は我がファミリーのカジノで多大なる功績を残してくれていた」
巷では神技と言われるほどの腕前の持ち主だそうだ。焔も黄老人についての噂は耳にしていた。
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